将来のデータドリブンな企業の構築に向けた重要なステップ

データの抽象的な価値を可視化することは、データをそれほど頻繁に使用しないユーザーでもデータを活用できるようになることを意味します。真にデータ中心の環境では、ユーザーのスキルレベルやデータリテラシーにかかわらず、データを目にするあらゆるユーザーが、インサイトを次の機会やイノベーションに変換できることが特徴です。

最近の Harvard Business Review 誌の記事 (英語) では、真の分析文化は、「多くのテクノロジーや少人数のユーザーの域を超えたもの」に基づいていると説明しています。代わりに、「データと分析が組織の鼓動となり、すべての重要な意思決定に組み込まれるべきである」としています。

これを達成するために企業は、データガバナンスと信頼性の基盤を確立する、データをコアコンピテンシーにする、データリテラシーによるデータ分析導入を促進する、あらゆるユーザーがデータを利用できるようにする、というデータ分析文化の定義を利用する必要があります。

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データをコアコンピテンシーにする

デジタル変革は、テクノロジーの力を活用することで、事業を成長させて、新しい市場を開拓し、新たな顧客を引き付けられるようにすることを約束します。これはまた、企業がすべてのデータ、または新たなカスタマーエクスペリエンスによってユーザーが残すデータの痕跡についても理解する必要があることを意味します。

たとえば、Domino's Pizza 社は、世界最大のピザブランドの 1 つです (ピザの発祥地であるイタリアにも拠点があります)。しかし、同社は、2010 年に市場シェアが大幅に落ち込み、投資家を落胆させていました。特徴のないピザと古くなりつつあるビジネスモデルが、この長期的な落ち込みをほぼ確実なものとしていました。同社は、競争の激しい業界で差別化を図るため、何か異なる思い切った方法を必要としていました。Forbes 誌 (英語) では、Domino's 社のデジタル変革には、全体的に 3 つの重要な要素があったと説明しています。

組織全体の賛同から徹底した指標の測定にいたるまで、Domino's 社では、分析およびソフトウェア関連の人材を 400 人 (企業従業員 800 人のうち) 配置することで、デジタル変革を可能としました。ピザの配達を最適化し、データを効果的に活用して新しい顧客を開拓しつつ、既存の顧客との関係も育んでいくことが、ビジネスの成功と生き残りに不可欠となりました。

Domino's 社は、データからインサイトを得るという考え方を導入して、データドリブンなピザブランドへと移行したことで、ブランド全体にまったく新しい機会がもたらされました。Domino's 社は、保持しているデータを活用して、新しいソーシャルメディアとモバイルの戦略を作成し、新しい顧客と同社の商品とを結び付けました (ピザの絵文字で注文する)。また、同社の商品の質に対する顧客の期待に関するインサイトを発見しました。それは、焼きたて、熱々、速さです。これらの要素を基に、オリジナルのピザ配達車 (Adweek 誌はこれを「チーズ好きのためのバットモービル」と呼びました) が作り出され、Domino's 社を明確かつ確実に 21 世紀のピザブランドとして確立しました。

これらすべてのテクノロジー (そして、ピザをさらに美味しくしたこと) によって、顧客による注文方法 (Domino's アプリを使用、Twitter から直接注文、または絵文字をテキスト送信)、注文状況の確認方法、そして Domino's 社による業務管理方法が変革されました。

デジタル変革は、単により多くのデータを収集するということではありません。デジタル変革により企業がモダナイズされます。これは、データから得られるすべての知識を活用することを意味します。長期的な成功に向けて、今日の企業は、データを最大限に抽出し活用するために必要となるインフラストラクチャとリソースに重点を置いています。

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データガバナンスと信頼性の基盤を確立する

強固な基盤にはまず、適切な管理に裏打ちされた、オープンな姿勢が必要です。最近のナレッジワーカーは、データに基づいた意思決定を行うことが求められているため、IT 部門による支援の有無にかかわらずデータを活用する方法を見つけ出します。企業データへのアクセスを制御することは、悪影響を及ぼす可能性があります。従業員は、スプレッドシートを使って独自のデータソースを作成するか、Web 上のデータソースからデータをダウンロードする可能性があります。その結果、企業のデータスチュワードや IT 部門による認証を受けていない、セキュリティ保護されていないデータのサイロ状態が過剰に生み出されます。

今日の企業は、最終的な目標として、あらゆるユーザータイプに対して適切なレベルの制御を設定できる、セルフサービス分析を備えたデータ管理機能を構築しています。高い成果を上げている企業は、「攻め」のデータ戦略と「守り」のデータ戦略の統合アプローチを採用しています。これにより、「顧客重視のビジネス機能」と「法規制、財務、コンプライアンス、IT 上の懸念」の両方に対応できます (HBR)。たとえば、IT 部門は、カスタム分析を実施したいユーザーが探索し活用できる、認証済みのデータソースや標準レポートを作成します。

REI 社は、1600 万人以上の会員数を擁する、米国最大のアウトドア用品専門の消費者協同組合であり、統合アプローチの典型的な例です。REI 社は、90 テラバイト以上の顧客データを活用して、帰属や販売指標を追跡し、顧客のロイヤルティやリピート販売を増大させています。

REI 社の分析プログラムの中核には、ビジネス部門と IT 部門とのコラボレーションが存在します。REI 社のカスタマー & アドバンスドアナリティクス担当ディレクターである Clinton Fowler 氏は、ビジネス部門が顧客の傾向について詳細に分析できるようにするために、「IT 部門が、本稼働レベルのテクノロジーとサービスを提供し、特に、信頼性、アクセシビリティ、スケーラビリティ、パフォーマンス、およびサポートに関する重要な投資を行う」方法について説明しました。

ビジネス部門と IT 部門のコラボレーションを促進するために両部門は、同じ場所で作業することで信頼関係を構築して直接やり取りする、IT 部門とビジネス部門のリーダーによるミーティングを毎月行う、プロジェクトの最新情報を毎週配信する、ニーズに対する理解を深めるために必須のチームミーティングを定期的にスケジュールする、一貫した 1 対 1 のミーティングを実施する、という 5 つの取り組みを行っています。その結果、REI 社のマーケティングから業務にいたるまでのビジネス部門が、日々の意思決定に影響を与える、75 超のデータソースの完全なビューを得られるようになりました。

統合されたガバナンス戦略は、強固なデータ企業にとっての基盤となります。ビジネス部門がデータの生成に対応し、IT 部門がデータポリシーやシステムに対応することで、IT 部門とビジネス部門が連携します。結果、IT 部門がセキュリティを確保し、ユーザーが確実に信頼できるデータを探索してビジネス上のインパクトを促進できる環境が実現します。

セルフサービス分析が登場したとき、BI の世界では大きな転換が引き起こされました。つまり、誰もが分析を行い、答えを導き出せるようになったのです。そして現在、それと同じことがガバナンスにも起こっています。

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データリテラシーによって導入を促進する

データから価値を引き出すには、従業員はデータを理解して分析し、その結果を企業全体にわたって伝えるスキルが必要です。

データ中心型の企業の構築は、雇用プロセスから始まります。データを解釈する方法を理解し、生まれながらにして持つ好奇心によって可能性を探り、プロセスを最適化する人材を雇用します。この目標を達成するためには、経営幹部がデータに基づいたマインドセットを持ち、データリテラシーを企業の戦略的な取り組みとして推進するトップダウン型のアプローチを必要とします。

データリテラシーに重点を置くと、既存の従業員のスキルセットも強化されます。スキルアップのプログラムやメンタリングに投資するための時間と余裕を従業員に与えることは、企業にとっての利益につながり、ビジネス上のすべての会話や意思決定においてデータが重要な役割を果たすようになります。

「1970 年代に創設された銀行 & 証券会社」という説明は、「データ企業」の一般的な認識に必ずしも一致しません。Charles Schwab 社は、最新のセルフサービス分析時代に向けて移行し、ユーザーがデータに関心を持ってより効果的にデータを分析する方法を学びたいと思う環境を作ることで、そのような一般的な認識に反して、データ企業となりました。グローバルデータオフィサーである Andrew Salesky 氏は以前、データ分析の導入を促進するには、「熟練のアナリストと初心者のビジネスユーザーの両方をサポートする」、新しいキャパシティ計画とサポートモデルが必要であると述べました。

データガバナンスとパフォーマンスを担当するチームでもある Charles Schwab 社のセンターオブエクセレンスは、SharePoint ポータル内に社内コミュニティを確立しました。従業員は、このコミュニティを活用して、質問をし、使用事例を共有するほか、フィードバックを提供できます。その結果として、Charles Schwab 社のセルフサービス分析プラットフォームを利用するユーザー数がすぐに倍増し、支店マネージャー、金融コンサルタント、シニアリーダーなどのスタッフが重要なビジネス機能を改善する機会を特定できるようになりました。

データは、すべての人がデータの活用を望み、活用するための知識を持って初めて効果を発揮します。データリテラシーは、エンジニアやアナリストに限定されるべきではありません。効果的なデータ分析の導入とは、すべての部門にデータ分析能力が与えられることで、最終的にパフォーマンスを追跡して、新たな機会を発見し、新しいアイデアを生み出せるようになることです。

社内ユーザーグループは、連携して共同作業するだけでなく、スキルを共有して、互いに高め合うことができるユーザーグループとなりました。

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あらゆるユーザーがデータを利用できるようにする

バスケットボールのコーチは、チームメート全員がビッグプレーをする機会を確実にビジュアル化できるように、選手の周辺視野の強化と発達のために努力しています。同じように、組織のリーダーは、すべてのナレッジワーカーに分析能力を与える、分析文化を育成する必要があります。新たな戦略を策定する企業が増えているため、すべての人材を最大限に活用するための完全な分析環境を提供するモダン分析プラットフォームが必要となります。

MillerCoors 社を例に見てみましょう。Coors、Blue Moon、Miller などのマーキービールブランドの醸造元である、MillerCoors 社は、競争の激しいグローバル市場で事業を展開しています。営業スタッフ (典型的なデータアナリスト以外の役割) が管理されたクリーンなデータを使用できるようにしたことで、市場シェアの確保に役立ち、重大な違いをもたらしました。これは、IT から営業チームまでの完全な分析エクスペリエンスであり、これにより MillerCoors 社が競争力の高いブランドとしての可能性を最大限に引き出すことができます。たとえば、MillerCoors 社の営業チームは、定期的にモバイルダッシュボードを使用して、小売業者にとって最も収益性の高い製品を特定しています。この際、アカウント特定の指標をその場で検索できる機会も提供されます。

顧客ソリューション担当ディレクターの Jim Webb 氏 は、「営業チームは打ち合わせの 15 分前に、完全な売上レポートを引き出し、小売業者への対応に必要な情報を確認し、小売業者がビールカテゴリーの規模と価値を拡大できる重要な機会についての情報をまとめることができます」と、説明しています。

営業担当者、マーケティング担当者、人事担当者のいずれの場合でも、機会が与えられれば、誰もがデータからインサイトを引き出して、より優れた意思決定を行える可能性があります。

ほぼあらゆる学部で、特にデータは関係ないと考えている学部では、何らかの分析を利用できると思います。

誰もがデータを利用できるようにすることが、未来の革新的な企業を形づくる上での理念となります。

最新のデータ世界では、データ量が 163 ゼタバイトにのぼると予測されています。このデータのすべてが、次なるビジネス機会をもたらす可能性を持っています。この成長の機会を活用できずにで勢いを失う組織もありますが、ほとんどの組織は従業員にデータをインサイトに変換する能力を与える方法を見出すでしょう。すべてのナレッジワーカーがデータスキルのレベルを上げると (そして、データを分析できるようになると)、それぞれが個人の強みに基づいた独自の観点をもたらすことができます。その結果、後を追うのではなく、変革を先導するデータドリブンな企業が確立されるのです。