勉強会・事例発表イベントで Tableau ユーザーと利用範囲が急拡大|住友ゴム工業株式会社
各部門のデータ活用事例が続出、新ビジネスでも Tableau が多大な貢献
導入の背景
データドリブン文化確立の第一歩として製造部門での Tableau 利用を開始
住友ゴム工業株式会社は、1909 年に日本初の近代的ゴム工場として創業して以来、独自のゴム技術を活かし、タイヤ・スポーツ・産業品の 3 事業を軸にビジネスを展開してきました。「 DUNLOP 」ブランドをはじめとするタイヤの販売本数は、年間 1 億 1,100 万本以上に達します。
そのほかにも、ゴルフクラブ・テニスラケットなどのスポーツ用品から、ゴム手袋・介護用品などの生活用品、制振ダンパーなどの産業用資材まで、同社のゴム製品は人々の暮らしのあらゆる場面で利用されています。
そんな同社が Tableau を導入したのは 2018 年。同社では当時、社内に乱立する IT システムで各種のデータがバラバラに管理されていました。データを活用したい場合、システム部門が現場のニーズを聞いてデータを収集し、開発したシステムを現場に見せて改修を重ねるという、時間と手間のかかる工程を経なければなりませんでした。
同社はその状況を打破するため、「データドリブン型の企業文化の確立」という目標を掲げ、その第一歩として製造部門に Tableau を導入。現場の社員が自らデータを可視化・分析できる環境を整えました。同時に、金子秀一氏をリーダーとする Tableau 推進チームが中心となって、学習コンテンツの整備や社内勉強会の開催などの施策を展開し、ユーザーの育成に励みました。
その結果、数十ライセンスからスタートした Tableau のユーザー数は、導入 1 年半後に 1,000 ライセンスを突破。毎朝 30 分程度かかっていた Excel にデータを手入力する作業や、会議で 30~40 分を費やしていた数値の報告などが不要になり、データから新たな気づきを得て意思決定やアクションにすばやくつなげられる場面が徐々に増えていきました。そうした取り組みや成果については、2020 年公開の記事で詳しく述べられています。
ただ、2020 年時点でデータを活用し始めていたのは、まだ製造部門を中心とする一部の社員に限られていました。同社の目指す「データドリブン型の企業文化の確立」を“ 山の頂”とすれば、「まだ 3 ~ 4 合目」(金子氏)という段階だったのです。
ではその後、Tableau のユーザーと活用領域をさらに拡大するため、同社ではどのような施策を推進し、いかなる成果を上げているのでしょうか? 2020 年以降の同社の取り組みを詳しく見てみましょう。
Tableau の導入・運用環境
勉強会・事例発表イベントでユーザー数と利用範囲が急拡大
同社では Tableau の導入当初、主に製造部門の社員を対象に、数名単位の説明会や勉強会を繰り返し実施して、Tableau への理解を深めてもらうという、地道なユーザー育成と普及活動を実施。学習コンテンツを内製し、入門から上級までの実践的な勉強会を定期的に開催することで、ユーザーを少しずつ増やしていきました。
それと並行して進めたのが、社内コミュニティの活動を通じた Tableau の認知度の向上と横のつながりの強化です。社内での Tableau の活用事例を発表する場として 2019 年に開催した「 Tableau Day 」には、約 300 名の社員が参加。製造部門だけでなく、全社的に Tableau が広がる大きなきっかけとなりました。
そうした進捗と成果を踏まえ、同社では 2020 年以降、人材の育成と Tableau の認知度向上にいっそう力を注ぎました。特に意識したのは、特定の部門や役職の社員だけでなく、経営層を含め、全社を巻き込んでいくことだ、と金子氏は話します。「 Tableau の広がりを加速させるため、なるべくいろいろな方に声をかけて勉強会やイベントに参加してもらっています。2020 年、2021 年の『 Tableau Day 』には、さまざまな部門から約 450 名の社員が参加しただけでなく、社長以下、多くの役員が出席してくれました」(金子氏)
2022 年以降はそこからさらに発展させ、Tableau に限らずデジタル全般について情報を共有するイベント「 Digital Innovation Day 」を開催。同時に、「 Tableau Day 」は事業本部単位で実施するようになりました。その意図について、金子氏はこう説明します。
「全社イベントは、Tableau を含めたさまざまなデジタルをもっと身近に感じてもらい、全社で DX を進めていく機運を高める狙いがあります。一方の『 Tableau Day 』については、2020 年以降、Tableau のユーザー数と利用範囲が拡大して各事業本部にノウハウが蓄積されたことで、事業本部ごとの自走が可能になったと判断しました。そのほうが、各事業本部の業務に特化した事例を共有し、Tableau の具体的な活用法をイメージしやすいと考えたのです」(金子氏)
勉強会には毎回 70 ~ 80 名が参加するようになり、Tableau のユーザーは、グローバルを含めて加速度的に増えていきました。その結果、Tableau のライセンス数は、2020 年と 2023 年を比較すると、実に約 4 倍の 4,000 ライセンスにまで増加したのです。
Tableau の導入効果
各部門の Tableau ユーザーによるデータ活用事例が続出
先述の通り、2020 年時点の同社において、自らデータを見てスピーディにアクションを起こせるのは、一部の社員だけでした。全社的な Tableau のユーザー育成と普及活動は、その状況に変革をもたらした、と金子氏はいいます。
「ボトムアップ・トップダウン両面での取り組みが、データ活用を加速させる大きな要因になりました。まず現場レベルについては、全体の 5% しかTableauを使わない 2020 年頃のような状況では、なかなかブレイクスルーは起きません。利用者が 30% を超えたぐらいから、『それなら自分も使ってみようかな』と考える社員が加速度的に増え、データ活用が一気に進みました。
一方、トップの関与についても、自ら勉強会やイベントに参加するなど、トップ Tableau を積極的に利用する姿勢を早くから見せた部門や拠点ほど、データの活用が進んでいます。経営会議などにおいて、『もっとデータにもとづいて判断していくべきだ』という方針が明確に打ち出されたことも、データドリブンカルチャーの醸成に大きく寄与しています」(金子氏)
実際、同社ではさまざまな領域でデータ活用の事例が続出しています。たとえば製造部門では、生産工程を自動化するファクトリーオートメーションの実績データを Tableau で可視化・分析し、品質や生産性の向上につなげています。ほかにも、AI・IoTの技術を利用して、工場における人員の動きを検出し、Tableau で可視化・分析する事例が、これまでにない取り組みとして社内で高く評価されています。
サプライチェーンの領域では、海外の拠点・販売網を含めたグローバルのデータを用いて物流の状況を可視化。それにもとづいてリードタイムを短縮するなどの改善策を打ち出せるようになっています。
設計部門においても、製品の設計から工場での試作、性能の試験、設計部門へのフィードバックまでという一連の工程のデータを連携させ、Tableauで可視化しました。結果、従来時間と手間のかかっていた部署間の連絡や確認をすることなく、各製品の状況をひと目で把握できるようになり、一連の工程が大幅に効率化されました。
そのような事例が次々に出てくるようになったのは、Tableau をセルフ BI ツールとして利用できる人材が増えたことはもちろん、データ活用のスピード自体が飛躍的に向上したことも大きく関係しています。Tableau 導入前、システム部門が現場の意見を聞きながらデータ収集・可視化・分析を行っていたころと比べ、そのプロセスに要する時間は 70% 程度削減された、と金子氏はいいます。
「たとえば製造現場でなんらかの不具合が発生したとき、従来は複数のシステムに散在するデータを見なければなりませんでしたが、今は社員が自らデータをTableauに集約させ、1 つのダッシュボード上でドリルダウンまで完結できるので、以前の数倍のスピード感でデータを活用できています。
『こんなに簡単にデータを扱うことができて感動した』『手作業では時間がかかりすぎるから諦めていたことができるようになった』という社員の声をよく耳にするようになり、Tableau の推進者として本当に嬉しいですね」(金子氏)
従来は複数のシステムに散在するデータを見なければなりませんでしたが、今は社員が自らデータを Tableauに 集約させ、1 つのダッシュボード上でドリルダウンまで完結できるので、以前の数倍のスピード感でデータを活用できています。『こんなに簡単にデータを扱うことができて感動した』という社員の声をよく耳にするようになり、Tableau の推進者として本当に嬉しいですね。
導入の成果と今後の展開について
Tableau の活用で新ビジネスが“第 4 の事業の柱”になると期待
金子氏が、今後の展開として注目しているのが、ソリューション領域における Tablea uの活用です。同社は現在、独自の先進技術で開発したセンサーをタイヤに取りつけ、走行による磨耗状況や空気圧の変化などのデータをリアルタイムに収集・分析し、その情報を客に届けるという、新たなビジネスの創出に力を入れています。従来のタイヤ・スポーツ・産業品事業と並ぶ第 4 の事業の柱になると期待されるこの領域において、Tableau が大きな役割を果たすと考えられているのです。
「この領域の研究に長年取り組み、データの可視化などはすでに実現させていますが、収益化を考えたとき、お客様にその情報価値をいかにわかりやすい形でお届けできるかが重要になります。その点において、Tableau のビジュアル化の能力が大いに役立つと考えています」(金子氏)
一方、営業部門で利用している Salesforce と Tableau の連携も進められています。Salesforce 内の営業データを Tableau Server に連携させ、営業活動をともにする販売会社の社員がいつでもアクセス可能にすることで、最新の情報を共有しながら協業できる体制を確立しようとしています。また、海外の営業販売部門との情報共有の円滑化という観点から、Tableau Cloud の試験的な利用を開始し、Tableau Server からの全面移行を将来的な選択肢として検討しています。
導入から5年が経過した今、Tableau は同社の日頃の業務や会議の資料に当たり前のように登場する、全社の“ 共通言語”となっています。それでも、金子氏はまだ満足せず、さらに先を見据えています。
「課題はまだたくさんあります。たとえば、勉強会でよく質問される、Tableau に読み込ませるデータを現場でいかに準備するか、という問題。その領域において、Tableau Prep の存在は大きく、それによってある程度セルフ化できてはいるものの、さらなる効率化は今も悩んでいるテーマです。データ管理についても、 Tableau Data Management をもっと有効に活用できる余地があると思っています。
また、工場長レベルで Tableau Viewer を自ら使ってデータを見るケースはありますが、経営レベルではまだまだ少ない。分析結果を PowerPoint で見るのではなく、Tableau そのもので見るようになってほしいと考えています。
そうした課題をクリアし、Tableau を知っているというだけでなく、全社員が自分で使えるようになるところまで、今後 2~3 年間で進めていきたい。データドリブン文化の確立という目標に対して、ようやく“ 5 合目”ぐらいまできた、という感じですね」
※ 本事例は 2023 年 4 月時点の情報です