手厚い人材育成と伴走支援でデータ活用を定着化|サントリーホールディングス株式会社

50部署230名のユーザーがTableauで好事例を創出

導入の背景

個人依存のデータ活用、不統一な指標によりBIツールの利用定着せず

「世界で最も愛され・信頼される食品酒類総合企業」を目指す姿とし、その実現に向けた戦略の柱としてデジタル活用を推進するサントリーホールディングス株式会社。同社は長年にわたり、日進月歩するデジタルテクノロジーを積極的に採り入れ、商品・サービスの改善や業務オペレーションの革新につなげてきました。中でもBIツールに関しては、まだ国内で普及し始めたばかりだった2000年代に早くも導入し、経営判断や意思決定などに利用してきました。

とはいえ、最初からBIツールを全社的に活用できていたわけではありません。さまざまなBIツールを導入したものの、利用範囲が一部の部門や業務にとどまり、定着・拡大までには至らない、という状況が長く続いていたのです。サントリーグループのアプリケーション戦略を担当する、サントリーシステムテクノロジー株式会社 取締役 ビジネスソリューション部長の大野仁史氏は、次のように振り返ります。

「BIツールをExcelの延長、要はデータを可視化できればいい、という程度のものとしかとらえていなかったので、さまざまなデータをつないで分析する、というレベルにはなかなか達しませんでした」(大野氏)

データ戦略部 課長の佐藤陽氏は、その言葉を受けてこう続けます。

「個人の能力やスキル、経験にもとづいたデータの使い方がベースになっていたことや、事業・部門によって異なる指標を用いていたことなどが、BIツールの利用定着・拡大の阻害要因になっていました」(佐藤氏)

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Tableau 選定の理由

顧客に寄り添って定着・活用拡大を図る手厚い支援体制が決め手に

現場では日々膨大のデータが蓄積されるのに、Excelなどによる可視化・分析では限界があり、具体的にどう活用すればいいかがわからない。そうした状況から脱却するには、ユーザーが大量のデータを自由に可視化・分析できる環境を整える必要がある。そう考えた同社は、複数のBIツールを比較検討し、最終的にTableauの導入を決めました。

まず評価したのは、たとえばMicrosoft PowerBIと比べて関数(LOD計算)に優れているなど、機能が豊富であることです。また、データを異なる観点から見たいとき、すぐに切り口を変えてスムーズに分析できるなど、操作性・柔軟性の高さも選定のポイントとなりました。

ただ、そうしたさまざまな評価点の中で特に決め手となったのは、セールスフォース・ジャパンによる支援体制が充実していたことだ、と大野氏は話します。

「ベンダーによっては『導入して終わり』となることが往々にしてありますが、それに対してセールスフォース・ジャパンの担当者からは、導入後のスキル習得から利用定着化、活用拡大まで、常に寄り添って支援してくれるという印象を受けました。私たちからするとBI活用は未知の世界ですから、課題をうまく聞き出して解決に向けた提案をしてくれる、他社の事例を共有してヒントを与えてくれるなど、当社と一体となって取り組んでくれる伴走支援は非常に心強く、選定の大きな要因となりました」(大野氏)

Tableau の導入・展開

手厚い研修と伴走支援で各部門のキーマンとなる人材を育成

同社は、Tableauの定着化を確実に進めるため、スモールスタートで利用部門を徐々に拡大する方針を採用。最初は、業務改善や課題解決のためにデータを活用したい、という意識の高い部門を中心にTableauを展開しました。そして、1回10名ほどの希望者に対し、推進チームのメンバーが講師役となり、研修と伴走支援をそれぞれ1か月間程度実施しました。推進メンバーの1人であるシステム品質部の大橋璃乃氏は、人材育成において工夫した点についてこう説明します。

「POS(売上)データや経理データなど、各ユーザーが自部門で普段使っているデータを用いることで、実際の業務での活用をイメージしてもらえるようにしました。また、しっかりとスキルを身につけてもらうため、座学だけで終わりにせず、1か月伴走支援したあとに成果を発表する場を設け、モチベーションの向上を図りました」(大橋氏)

推進チームのメンバーは、業務時間の多くを割いてユーザーを徹底的に支援しました。メンバーの1人でビジネスソリューション部に所属する逆井友之氏は、オンラインサポートだけでなく、自販機事業会社の「サントリービバレッジソリューション社」をはじめ、現場にも足繁く通ったそうです 。

「推進チームの6名のメンバーは、業務時間の3~5割ぐらいをユーザーの伴走支援にあてています。現場に何日も通い、『そもそもそのデータを可視化してなにをしたいのか』という本質的なところからキーマンと一緒に考え、本当に必要なものを作って現場で自走できるようサポートしています」(逆井氏)

そうした手厚い取り組みにより、独力でダッシュボードを作成し、思い通りにデータを可視化・分析できる人材は徐々に増加。各部門のキーマンとなり、データ活用の推進役を担うようになりました。そして全社的な取り組みの開始から約3年後、Tableauのユーザー数はIT部門を除いて約230名、展開部署は自販機事業・健康食品事業・酒食営業部門など50部署に達したのです。

食品部門のブランドマーケット推移のダッシュボード

食品部門のブランドマーケット推移のダッシュボード

Tableau の活用

売上・生産性の可視化・分析など、各部門で好事例が続出

同社の各部門ではキーマンを中心に、それぞれの業務改善や課題解決につながるデータの可視化・分析が活発に行われるようになりました。たとえば食品事業の営業部門では、小売店の売上を示すPOSデータをダッシュボード化し、商品のカテゴリーや容器の種別など、さまざまな角度から分析。各営業担当者の受け持つチェーンの強みや弱み、予算に対する進捗などを把握して、商談における提案や販売計画の立案に活かしています。食品事業の営業部門全体へのTableauの展開を担当するビジネスソリューション部の中根萌氏はいいます。

「従来はそうしたデータの可視化・分析を部署ごとにExcelでバラバラに行っていたので、統一された指標で事業全体の状況を見られない、作業に時間がかかる、扱えるデータ量に限界があるといった課題を抱えていました。Tableauによって、各部署のデータを同じ指標で見られるようになり、またデータの抽出・加工・可視化という一連の工程が大幅に効率化され、迅速かつ的確に意思決定できるようになりました」(中根氏)

一方、自販機事業においては、自販機の売上や、商品を補充するルートセールスの生産性を可視化しています。Excelではデータ収集・加工の工数の問題などにより実質的に行えなかった、自販機1台ごとの売上やルートセールス1人ひとりの生産性などの深堀り分析を短時間で実行し、即座に売上や勤怠の改善につなげられるようになりました。

さらにIT部門では、社内の各システムのログデータをもとに利用状況を可視化し、システムの開発・改修計画に反映させている、と大野氏は話します。

「従来はシステムの利用状況を正確に把握・評価していなかったので、いらないものまで開発・維持し、コストがかさんでいましたが、今はログデータをよりどころとして、不要なシステムは作らない、あるいは小さくする、と社内に説明できます。ログデータの可視化は、たとえばTableauのVizの閲覧状況から、うまく使っている人材を探してそのノウハウを社内に共有するなど、さまざまなポテンシャルを秘めていると感じています」(大野氏)
 

自販機のアクセス数分析ダッシュボード

自販機のアクセス数分析ダッシュボード

 

Tableau の導入の効果

大きな成果につながる新たな“改善の芽”を現状分析で発見

特筆すべきは、そうした迅速なデータの可視化・分析とPDCAの取り組みが、各部門で自立的に行われていることです。推進チームが、Tableauの導入段階から事業側と同じ目線で活動を推進し、経営層から現場レベルまで一貫したデータ活用の意識を浸透させたからこそ生まれた成果といえるでしょう。

Tableauの導入による定量効果について、大橋氏はこう話します。

「データの抽出・加工・可視化という一連の工程が自動化され、作業時間が大幅に削減されました。もともと1日かかっていた作業が一瞬で終わるようになった、というような話を現場からよく聞きます」(大橋氏)

一方で佐藤氏は、Tableau単体の導入効果を定量的に示すのはなかなか難しいとしながらも、次のように話します。

「当社では『ルートセールスの生産性◯%改善』といった数値目標を掲げていますが、毎年継続して活動しているので、正直これ以上の改善は難しいという“上げ止まり”の状態でした。ところがTableauで現状をしっかり可視化すると、新たな“改善の芽”が見つかって次のアクションにつながり、結果として年間何十億円という利益を生む。そういう間接的な効果は間違いなくあります」(佐藤氏)

大野氏は経営側の視点から、データ活用に対する社員の意識と働き方の変化についてこう語ります。

「感覚ではなくデータを見てアクションや指示をするという、本来至極当たり前とはいえ難しかったことができるようになってきました。そして、うまくいっている部門の事例に引っ張られて、各部門でバラバラだった仕事の仕方の標準化が進み、『これからはこの新しいシステムとデータで仕事を進めるのだ』という雰囲気に変わってきています」(大野氏)

 

感覚ではなくデータを見てアクションや指示をするという、本来至極当たり前とはいえ難しかったことができるようになってきました。

今後の展開について

Tableauの活用範囲を広げ、全社的なレベル向上を図る

Tableauの利用定着化を実現し、各部門で大きな成果を挙げている同社。中根氏は、今後も活用範囲をどんどん拡大していきたい、と意気込みを語ります。

「現状、食品事業の営業部門ではPOSデータの活用が中心ですが、ほかにもフィールドセールスの行動データをはじめ、活用できていないデータはたくさんあります。それらをより細かく可視化・分析したり、連携させたりして、データの新たな価値を引き出していきたいと考えています」(中根氏)

大野氏は、同社におけるデータ活用は道半ばだとした上で、最後をこう締めくくりました。

「データを活用できる部門や社員が増え、好事例も出てきましたが、一方でまだそこまでに達していないところもあるので、全体のレベルを上げていくことが大事だと思います。ただ、全部門・全社員が一律に“スポーツカー”を乗りこなせるようになる必要はなく、もっと簡単に乗れる“普通車”のようなタイプのデータ活用も併存していたほうがいい。そういう裾野の広がりを期待しています」(大野氏)

 

※ 本事例は 2024年 9月時点の情報です

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