3 フェーズで構成された DX 戦略を推進|住友化学株式会社
データ活用人材の短期間での育成
データ集計・分析時間の短縮
導入の背景
DX の着実な推進のために必須だったデータ活用人材の育成
別子銅山で銅の製錬時に出る亜硫酸ガスを原料とした肥料の製造から事業をスタートし、創業当初から SDGs の考え方を DNA に持つ住友化学株式会社。住友化学のような素材・化学産業にとって、温室効果ガス、海洋プラスチック、食糧問題などサスティナブルな社会の実現に向けた課題を解決する製品やソリューションの提供は事業創出のチャンスでもある一方、顧客ニーズの多様化、高度化が進み、製品ライフサイクルの短期化が進んでいることから、それらの変化への対応が求められます。そのために 2019 年から本格的に取り組んでいるのが、大きく 3 つのフェーズで構成された DX 推進です。
「まず最初に着手したのが、プラント、研究開発、サプライチェーン、オフィスの 4 領域の業務プロセスの生産性向上を目指す『DX 戦略 1.0』です」と説明するのは、DX のために 2019 年に立ち上げられたデジタル革新部で、部長を務める金子 正吾 氏。
2021 年度には、既存事業の競争力確保を目指す『DX 戦略 2.0』もスタートしていると語ります。「DX 戦略 1.0、2.0 と並行して、データの利活用による新たなビジネスモデルの実現への挑戦を始めています。当社ではこれを『DX 戦略 3.0』と呼んでいます」。
このような DX 戦略を着実に進めていくには、ビジネスに携わる社員が自らデータ分析を担う「データ活用の民主化」が欠かせないと金子氏。しかし以前の住友化学では、データ活用人材を育成する研修プログラムがなく、特定の担当者に業務が集中する傾向があったと振り返ります。
「データ分析業務は Excel などを使って手作業で行っており、定型的なデータ収集に忙殺されていました。またデータ分析の内容も、単一の分析軸での分析がほとんどであり、長期間でのデータ比較や多角的な分析ができておらず、データドリブンな意思決定がスムーズにできているとは言い難い状況でした」。
この状況を変えていくため、2021 年 1 月に Tableau 導入を決定。データ活用人材の育成を積極的に進め、Tableau を使った定型処理の自動化やデータ分析スキルの定着を図っていきました。
Tableau の導入・運用環境について
1.5 か月の基礎研修と 2 か月のブートキャンプで自らの課題解決へ
Tableau を活用したデータ活用人材の教育が始まったのは 2021 年 4 月。主な対象者は各事業部門の一般職であり、その多くはこれまで Excel などでデータ収集・分析を担ってきた社員です。
「教育は年に 2 回実施しており、1 回あたり 50 名前後が参加しています」と言うのは、デジタル革新部 生産データ科学チームでデータサイエンティストとして活動する長谷川 徹 氏。参加者は各事業部門で候補者を選定してもらっており、2022 年 9 月までに 3 回目の教育コースが終了していると語ります。
そのカリキュラム内容は以下の通りです。
まず最初に行われるのが、座学によるデータリテラシー教育です。ここでは簡単なデータ集計方法や統計手法を学ぶと共に、Excel を使った簡単なダッシュボードの作成と、仮説検証型のデータ分析を行います。その次に行われるのが、Tableau の使い方を学ぶ e ラーニング。ここまでを約 1.5 か月かけて実施し、Tableau でデータ可視化・分析が行えるレベルにまで到達します。
「このように基礎をマスターした上で、その中の希望者が、Tableau を自らの課題解決につなげていくブートキャンプに進みます。DX 戦略 2.0 推進の柱であるデータ活用人材には、データ分析を自分の業務に適用し、現場で自律的に課題解決する力が必要不可欠だからです」(長谷川氏)。
ブートキャンプでは、受講者それぞれが自分の業務課題を持ち込み、Tableau のプロフェッショナルサービスが用意した講師と 1 対 1 で対話しながら、Tableau による課題解決の方法を学んでいきます。講師との対話はオンラインで行われ、毎週2回設定された時間帯に予約を入れることで受講できるようになっています。このブートキャンプは約 2 か月間行われ、最後は上司も参加する発表会で、課題解決の内容を発表して完了します。
「ブートキャンプを講師と 1 対 1 で進めている理由は、受講者の担当業務や業務課題がひとりひとり異なっており、パーソナライズされた実践の場が必要だからです」と金子氏。受講者のレベルも様々だと指摘します。「例えば、設定した課題を適切に解決する可視化の方法が分からない受講生には、講師が可視化の事例やアプローチのアドバイスをします。その一方で、既に自分で Tableau を使いこなしている人に対しては、より高度な可視化・分析できるダッシュボードを作る支援をしてもらっています」。
2022 年度末までには基礎研修を受講した社員は 150 人を超える予定。Tableau を自らの業務へ適用し課題解決できる人材も、50 人近くになるはずだと言います。
その一方で、社内コミュニティの運営にも力を入れています。上記の教育を受けた社員全員を対象にした社内 SNS が立ち上げられており、そこでデータ可視化・分析の社内事例や、BI 製品活用テクニックなどの情報が共有されているのです。また、2022 年 9 月には社内ポータルでの情報発信も開始しています。
これに加えて 2 つの支援も行われています。1 つは 2022 年 5 月にスタートした「Tableau ドクター」。これは Tableau プロフェッショナルサービスのよる「お悩み相談」であり、上記教育を修了した社員を対象に、月に 1 回の頻度で開催されています。もう 1 つは個別の技術サポート。これも Tableau ドクターと同じ時期に始まっており、月次のお悩み相談では対応しきれない疑問に対して、メールやショートミーティングで回答するというものです。
「これらのサポートは、Tableau による課題解決を定着させるために行っています。DX では各事業部に自走できる社員を増やすことが重要だと考えているからです」(金子氏)。
データの使い方が、以前とは大きく変わりました。以前はデータを提示する際に、事前に Excel で準備しておく必要がありましたが、Tableau ではその必要がありません。会議で議論になった場合でも、その場でデータを可視化して事実を確認できます。
Tableau 選定の理由について
最大の理由は学習コストの低さ、各種支援も導入を後押し
それではデータ活用人材を増やしていくための基盤として、なぜ Tableau が選ばれたのでしょうか。最大の採用理由は「学習コストの低さ」だと長谷川氏は説明します。
「多くの BI 製品は使いこなすまでにいくつかのハードルがあり、ここで躓くと先に進むことが難しく、結局は使われなくなってしまいます。これに対して Tableau は直感的に使うことができ、3 時間程度の講習と 1 回のハンズオンを行えば、それなりに使いこなせるようになります。またわからないことがあっても、ネットに活用動画や参考ページが数多く存在し、その通りに操作すればその通りに動きます。操作もほとんどがマウスのドラッグ&ドロップで行うことができ、躓くところがほとんどないのです」。
しかし採用理由はこれだけではありません。可視化の柔軟性や動作の速さも、大きなメリットだと指摘します。これならリアルタイムでデータを可視化・分析でき、その結果を迅速に業務や経営に活かせると評価されているのです。
「また導入検討の段階で、トライアルライセンスの発行や無料の講習会の実施など、多くの支援を Tableau の営業の方々からいただけたことも採用を後押ししました。さらに導入後も、教育や定着のための様々な支援をいただいています」。
Tableau の導入効果について
短期間での人材育成を実現、業務改善にも大きく貢献
データ活用の基盤として Tableau を採用したことで、次のような効果が得られています。
データ活用人材の短期間での育成
BI 製品の経験がない状態から、Tableau を使って自らの課題解決のためのインサイトを得られるようになるまで、わずか 3 か月で到達できるようになりました。ブートキャンプも含め、1 人あたりの教育に費やされている合計時間は約 40 時間。「ツールそのものではなく業務改善に集中できるようになり、データ活用によるクイックウィン(Quick Win)を実感しています。受講者のモチベーションも高く、次のサイクルにつなげていくことも容易です」(金子氏)。
データ集計・分析時間の短縮
以前は Excel を利用し、毎月 2 日間かけて製品毎にピボットテーブルを作成して行われていたデータ集計・分析が、Tableau Prep と Tableau によって 5 分で完了するようになりました。これだけでも 99 %以上の業務効率化につながっていると長谷川氏は指摘。業務効率化を目指す DX 戦略 1.0を、大きく前進させる存在になっていると言います。
業務における課題解決にも貢献
各事業部における業務課題解決にも、大きな貢献を果たしつつあります。その一例として長谷川氏が挙げるのが、サプライチェーンの可視化とこれによる BCP 対応の高度化です。「これはサプライヤーの地理的関係を考慮した上で購買や物流の状況を可視化するというものであり、どの地域のサプライヤーからどの程度の量を購買しているのか、ひと目で把握できるようにしています。このようなダッシュボードは、購買の最適化はもちろんのこと、災害などで物流が滞った際の迅速な対応にも役立ちます」。
住友化学単体にとどまらず、グループ会社も含めグローバルビジネス全体のサプライチェーン情報が一元的にダッシュボードに集約され、データに基づくリアルタイムで質の高い意思決定を実現したいと考えています。
今後の展開について
社内の成功事例を増やすと共に、グループ内のデータ連携も視野に
今後はビジネス領域でのデータ活用をさらに推進するため、より多くの成功事例やベストプラクティスを生み出し、それらを積極的に共有していきたいと長谷川氏。現在共有されている社内事例は 20 件程度ですが、2023 年 3 月までにはその数を倍増させたいと言います。
金子氏も「他の事業部で何をやっているのかを知ることは、新たな気付きやヒントを得るためには必要不可欠」だと述べた上で、実務者が課題解決を継続するには、上司の理解と積極的な支援も必要だと指摘します。実務者たちの成果を上司含め多くの方に知ってもらうために、社内の事例発表をする全社規模のオンラインイベントを実施しており、その第3 回目を 2023 年 2 月に開催する予定だと言います。
「現在はまだ住友化学本体の中で DX を進めている段階ですが、長期的にはグループを跨るデータ連携・活用も視野に入っています。生きたデータをシームレスかつリアルタイムにつなげることで、グループ全体の持つデータの価値が最大限発揮される環境を作っていきたいと考えています」。
※ 本事例は2022年9月時点の情報です
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