「分権型 IR 組織」を目指しデータ分析基盤にTableau を採用|北陸大学
データ分析までの時間を短縮
議論や意思決定の変化
学生の意欲向上
導入の背景
導入製品: Tableau Cloud、Tableau Desktop、Tableau Prep Creator、Explorer、Viewer
教学 IRを強化するため分権型 IR 組織を志向
大学内部の様々なデータを活用し、学修成果の改善に結びつけていこうという「教学 IR(Institutional Research)」。日本でもこの 10 年余りの間に、取り組む大学が増えています。ここで行われる分析内容を高度化するため、Tableau を活用した分析基盤を構築したのが北陸大学です。
「北陸大学では 2015 年から IR 室がありましたが、あまり活動できていない状況でした」と語るのは、経済経営学部 教授で情報・IR担当学長補佐も務める田尻 慎太郎氏。職員は 1 名のみとなっており、学生調査アンケートの実施・取りまとめを行う程度だったと振り返ります。「そのやり方もマークシートでの回答をリーダーで読み取り、その内容を Excel でまとめ PDF 化するというものでした。そのため報告書の作成だけで精一杯だったのです」。
2019 年 4 月に現職に着任し、この状況をなんとかしようと考えた田尻氏は、IR が進んでいる 8 大学に対してヒアリング調査を実施。日本ではIR の歴史がまだ浅いこともあり、大学によってアプローチは様々であることを把握します。
「IR に力を入れている大学では博士号を持つ職員を IR オフィスに採用しているケースもありますが、多くの大学ではそのような専門家を雇用することは困難です。また十分なスキルを兼ね備えた人材が十全に配置されたとしても、学内の分析需要が高まることで、IRオフィスだけでは処理しきれなくなることもわかりました。そこで当大学では『分権型 IR 組織』を目指すことに決定。これは各部局がそれぞれデータ分析機能を持つというもので、組織全体の IR 能力を拡大しやすいというメリットがあります」。
Tableau の導入・運用環境について
部署横断型で Viz にデータを集約、Tableau をデータサイエンス教育にも活用
その後、IR システムの仕様を固めた上で、複数のベンダーに提案を依頼。その中からヴェルク株式会社の Tableau を活用した提案を採用し、2020 年 4 月から Viz の構築に着手します。そして 2021 年 4 月に IR 運営委員会を立ち上げると共に、システムの正式稼働を開始しています。
「以前は各部署でサイロ化されていたデータを、IR 室が一括で収集・データベース化し、Tableau Cloud で可視化・分析できるようにしました」と田尻氏。現在までに、学生課データと進路支援課のデータのクロス分析や、薬剤師国家試験合格率のデータ分析、入試結果のデータ分析などを実現し、入学後の学修状況を個人別に表示する「ディプロマ・サプリメント」のダッシュボードも開発したといいます。「短期間でここまで実現できたのはヴェルクの支援があったから。たいへん感謝しています」。
その一方で Tableau は、全学部の 1 年生を対象にした情報リテラシーと経済経営学部 2 年生の統計学の入門科目でも活用されています。「入学直後の大学生に、Excel を教える前に Tableau を触らせるというのは、世界初ではないでしょうか」と言うのは、教務課長 兼 教学支援センター 次長を務める江口 美保氏。始める前は不安の方が大きかったものの、セールスフォース・ジャパンが提供したハンズオン動画などで授業を行った結果、大学側の予想を超えるストーリーを作成する学生もいたと語ります。「チャレンジングではありましたが、この教育内容は間違っていなかったと実感できました」。
総合平均スコア推移
以前は各部署でサイロ化されていたデータを、IR 室が一括で収集・データベース化し、Tableau Cloud で可視化・分析できるようにしました
Tableau 選定の理由について
最大の理由は TCO の低さ、分権型 IR に向いた使いやすさも評価
ヴェルクの提案が採用された最大の理由は、その内容が GoogleWorkspace for Education と連携させることで RDBMS を持たずに Tableau だけで IR システムを構築するというものであり、最も TCO が低かったからだと田尻氏。「当初は Creator ライセンスの価格を見て第一候補から外していたのですが、システム一式と 3 年間の費用を積み上げた結果、実は Tableau が最も安価であることがわかりました」。
しかし Tableau の優位性はそれだけではなかったとも指摘します。「まず Tableau そのものが使いやすく、分析軸を柔軟に変更しながら行う探索型分析に向いています。IR 室だけではなく大学全体でデータ分析を行う『分権型 IR 』では、このような特性が非常に重要です」。
さらに、ユーザー層に厚みがあるため、わからないことはコミュニティフォーラムで質問できることも、大きな魅力だと言います。
Tableau の導入効果について
議論や意思決定が大きく変化、学生の満足度も高い
IR の基盤として Tableau を採用したことで、次のような効果がもたらされています。
データ分析までの時間を短縮
「学期終了後はできるだけ早くデータを見たいのですが、今では成績を取りまとめたデータを受け取った後、Prep のフローを回すだけなので、1 日で Viz に反映できます」と、教務課 兼 IR 室課長の堀川 靖子氏は語ります。また従来から行っていた学生アンケート結果のレポート作成に関しても、「以前はデータを収集して Excel でまとめるだけで 1 か月程度かかっていましたが、今では報告書作成が 1 日で完了します」と、教務課 兼 IR 室の伊勢康平氏は述べています。
議論や意思決定の変化
学内で行われる議論や意思決定のやり方も、大きく変わりつつあります。「以前は印象論で議論することが少なくありませんでしたが、最近ではデータを確認した上で、意思決定を行うケースが増えています」と田尻氏。これこそが Tableau 導入の最大の効果ではないかと語ります。
学生の意欲向上
データサイエンス教育に Tableau を活用することで、データ活用に対する学生の意欲も高くなっています。これに関して、高等教育推進センター 教授 でセンター長も務める杉森 公一氏は次のように語っています。
「授業では学内売店のデータを分析していますが、学生が楽しそうにその課題に向き合っている姿に驚きました。Tableau でデータを操作していると、自分たちが意味のあることをしているのだと実感できるのだと思います。私はこれまで複数大学で情報教育や統計学教育に携わってきましたが、このような体験は初めてです」。
授業後のアンケート調査でも、「Tableau セクションに意欲的に取り組んだ」と回答した学生は 96 % に上り、「満足した」という回答も 89 % に達しています。
経済経営学部 2 年 馬緤百優さんのストーリー
学生が楽しそうにその課題に向き合っている姿に驚きました。Tableau でデータを操作していると、自分たちが意味のあることをしているのだと実感できるのだと思います。
今後の展開について
データ活用の幅とレベルをさらに拡大
すでにこの IR システムでは、学内のほぼ全てのデータを網羅して提供でできるようになっています。今後はより簡単にデータ提供できる仕組みを確立していくと共に、教職員や学生のスキルアップにも取り組んでいきたいと田尻氏は語ります。「2023 年 3 月には IR システムのデータをもとに、学生個々人に還元するディプロマ・サプリメントも発行する予定です」。
一方、データサイエンス教育においても、条件を満たした学生に対してオープンバッジによる履修証明を発行すると共に、2024 年 4 月からは科目を増やし、全学部の学生を対象にした「データサイエンス・AI 副専攻」を開講予定。その際にはオンラインで完結した内容にした SPOC(Small Private Online Course )化に取り組む計画だといいます。
※ 本事例は2022年10月時点の情報です