多角的なデータ分析で医療・介護施設の的確な経営戦略を立案|社会医療法人愛仁会

人材育成とデータ抽出・分析の効率化で意思決定の迅速化を実現

導入の背景

データ活用の文化はあるものの、その手段や体制に課題

社会医療法人愛仁会は、大阪府と兵庫県にまたがる広い地域で医療・介護事業を展開しています。1958 年に設立され、大阪市内の診療所 1 施設から始まった同法人は、その後の 65 年におよぶ活動によって、現在では急性期病院 4 施設、回復期病院 2 施設、介護施設 6 施設、健診センター 2 施設、看護専門学校 2 校を運営し、職員約 6,500 名を擁する組織に成長しています。

同法人には、設立当初からデータを積極的に活用して経営に取り組んできた歴史があります。愛仁会本部 情報システム部門 部長の田中信吾氏によると、医療業界では珍しいケースではないかといいます。

「データという科学的な根拠にもとづいて意思決定することは、医療提供の面では当然です。しかし、民間にはオーナー経営の医療法人が多いためか、経営面では必ずしもそうではありません。その中で、当法人は民間ですが非同族経営なので、昔から合議制で数字にもとづいてものごとを進める文化がありました」(田中氏)

ただ、そんな同法人にも、データ活用に関する課題がなかったわけではありません。もともと同法人では、本部や各施設の情報システム部門や企画部門が他部門から依頼を受け、Excel や Access で時間と手間をかけてデータを抽出・分析していました。また、BI ツールの活用については、月次の活動状況表を作成して定型レポートを提供する程度に留まっていました。そのため、経営層や現場の求めるスピード感やニーズに十分に応えられない、という問題があったのです。

行き詰まった状況に追い打ちをかけたのが、2003 年の DPC 制度(診療報酬の包括評価制度)の導入や 2014 年の病床機能報告制度の創設といった国の制度改正。従来のように病院内の診療に関する数字だけでなく、それらを取り巻くさまざまなデータを扱わなければならなくなったのです。同法人の急性期病院の1つである明石医療センターにおいて、企画分析・広報科の科長を務める西本享司氏はこう話します。

「単一項目のデータでも抽出・分析に時間がかかるのに、スピーディーに複数項目や時間軸などを組み合わせて多角的にデータ分析するのは難しく、経営層や現場に対してデータにもとづく意思決定の支援を十分に行えていなかった」(西本氏)

そこで同法人は 2014 年、法人内の状況や環境の変化に対応すべく Tableau を導入し、まずは 1 ライセンスから利用を開始したのです。

Tableau の導入・運用環境について

勉強会やワークショップで Tableau 人材を育成

同法人は最初に、それまで本部の情報システム部門において Excel や Access で行っていた作業を置き換えるところから、Tableau の利用を始めました。ただ、その後数年間は、組織体制やライセンス構成が十分でなく、Tableau の利用はごく一部の職員に留まっていたそうです。

活用拡大のきっかけになったのは、2020 年に Tableau 社によって実施された、Tableau Desktop Specialist 認定資格試験を通常の半額で受験できるキャンペーンでした。田中氏はこう振り返ります。

「仲間を増やすいい機会だと思い、本部の職員数名に声をかけました。そして、受験費用を法人負担とする支援のもとで一緒に勉強して資格を取り、Tableau のライセンスを徐々に増やしていきました」(田中氏)

愛仁会本部 企画部門の金谷甲輝氏も、その取り組みを通じて Tableau を使えるようになったコア人材の 1 人です。

「Tableau を使ってみたいとずっと思っていました。資格取得という目標に向かって、1 人ではなく皆で勉強したからこそ、スキルを身につけられたのだと思います。Excel などのほうが早くできる作業でも、あえて Tableau を使うように意識することで、少しずつ慣れていきました」(金谷氏)

続いて同法人は、本部内だけでなく、各施設の職員の集まる会議でも Tableau の分析結果を見せるなどして、法人全体に対して Tableau への関心を高める活動を進めていきました。

並行して組織と環境を整備し、2021 年に明石医療センターに企画分析・広報科を新設、2022 年には同科に科長兼任の西本氏以下、データ分析の専任担当者を 3 名配置しました。

さらに、Tableau の利用者と活用範囲を拡大すべく、本部主導で共有データソースの整備やダッシュボードファイルの作成・共有を行いました。また、Tableau 社の支援のもと、本部職員が講師となり、希望者を対象とするオンラインのワークショップやハンズオンを年 2~3 回のペースで開催し、データ分析への関心やスキルの向上を図りました。それらのイベントには、各施設のデータ分析担当者はもちろん、Tableau に興味のある人事部門や財務部門などの職員も多数参加しました。明石医療センター 企画分析・広報科 副主任の川上瑞希氏と松本麻里氏は、Tableau のスキルを習得した過程についてこう話します。

「なにもわからないところからのスタートでしたが、本部の職員の丁寧なサポートを受けながら、Excel などで行っていた業務を Tableau に置き換えていきました。スキルを身につけるためには、とにかくたくさん触って慣れていくのが一番だと感じました」(川上氏)

「使い方の流れをつかめていない段階でも、経営層や現場から課題をもらい、自分で Tableau を使って分析してみる。その結果はグラフでわかりやすく可視化されるので、Tableau にはこういう特徴があってこう使えるのだ、というイメージをだんだんつかんでいくことができました」(松本氏)

松本氏のように本部で 2 ヶ月間の研修を受けスキルを習得した後、施設に戻って業務に活かし、さらに他の職員に使い方を教える。そうした形で、同法人における Tableau  の利用は徐々に拡大したのです。

データソースから膨大なデータを迅速に取り込めることや、表示速度が速いこと、データを簡単に可視化できることに感動しました。また、Tableau の Viz はスタイリッシュで訴求力があり、そのまま使用するだけでわかりやすい資料を作成できるため、分析の依頼者からも好評です。

Tableau の導入効果について

膨大かつ多角的なデータ分析にもとづき経営・活動の戦略を立案

同法人の本部や各施設の分析担当者は、データ可視化・分析には自分の端末内の Tableau Desktop を、ダッシュボードの共有やデータソースの提供には Tableau Server を利用しています。そして他の職員や経営層は、Tableau Server にパブリッシュされたデータを参照し、さまざまな業務や意思決定に活かしています。

たとえば本部では、法人全体の経営・活動データの可視化・分析や、各施設の医療圏内のデータ比較などを行っています。そうした活動において、従来のツールでは不可能だったことが、Tableau なら簡単にできるようになった、と金谷氏は喜びます。

「収入の分析 1 つをとっても、従来は法人全体だとデータ量が多すぎ、1 か月ごと、施設ごとというように分析対象を絞らなければならず、安定した傾向を見ることができませんでした。それに対して Tableau は、法人全体の 3~4 年分のデータでも手軽に、迅速に分析できます。格段に多くのデータを扱えるようになったことで、以前より信頼性の高い分析が可能になりました」(金谷氏)

 

dashboard

 

一方、明石医療センターでも Tableau の活用は進んでいます。一例として、厚生労働省による「退院患者調査」データを取り込み、同センターの医療圏の状況(患者エリア、他院との比較、紹介・退院支援の状況、入院期間など)を細かく分析し、営業・セミナー・研修会などの地域連携活動や、広報誌・チラシ・SNS などを有効活用する広報活動、収益改善活動などの戦略立案に活かせるようになったのです。

「Tableau は、地図分析の専用ソフトを用いることなく、地理情報システム( GIS )のデータを直接読み込め、散布図も簡単に作成できるので、直感的にデータの特徴を発見できます。どういう疾患や紹介患者がどのエリアでどう増減しているか、患者の転院先としてどの病院の受け入れが早いかなどを地図やダッシュボードで視覚的に把握し、経営層に病院運営の提言をしたり、営業・広報活動などの次のアクションにつなげたりしています」(西本氏)

データの準備や分析、資料作成の時間が大幅に短縮され、結果的に意思決定が早くなりました。大量のデータでも分析速度が低下せず、Viz を簡単に作成・変更できるため、アジャイル的なデータ分析が容易になったと感じています。

導入の成果と今後の展開について

データ分析の効率化・高精度化を実現、データドリブン文化の定着を目指す

同法人における Tableau 導入の効果は大別して 2 つあります。1つはいうまでもなく、データ分析に関する各種作業の効率化です。西本氏はいいます。

「Access だと処理に 1 時間かかっていたことが、Tableau なら 1 分足らずで終わるなど、データの準備作業や分析、資料作成の時間が大幅に短縮されました。また、ツール自体の総合的な使い勝手という点でも、以前が 5 段階の 2 だとすれば現在は 4 、つまり 2 倍ぐらいに上がったと感じています。大量のデータでも分析速度が低下せず、Viz を簡単に作成・変更できるので、アジャイル的なデータ分析が容易になり、効果を定量的に示すのはなかなか難しいですが、結果として意思決定も迅速化されていると考えています」(西本氏)

そして、もう 1 つの効果として金谷氏は、「今までできなかったことができるようになったこと」を挙げます。

「従来ツールでは処理できなかった量のデータを分析できるようになったのは、本当に大きな成果です。たとえば法人全体の収入を分析するのに、以前は短い期間や各施設について個別に分析して結合していましたが、今は一気にデータを分析し、より安定した精度の高い結果を導き出すことができます。

また、以前なら分析のトライアンドエラーを 1 回しか行えなかったのと同じ時間内に、4 回、5 回とさまざまな分析を繰り返せるようになったことも大きな進歩です。分析のサイクルが早まったことで、経営層や現場のニーズに対して、多角的な視点からさまざまなデータや結果を提供し、ユーザーの気づきを後押しできるようになりました」(金谷氏)

推進側のそうした実感は、現場でも共有されているようです。

「以前は Access でクエリを作成するのに非常に頭と時間を使い、出た結果が間違っていればやり直しにさらに時間がかかりました。Tableau は、考えるより先に手を動かし、直感的にデータを入れてトライアンドエラーを繰り返せる。そこに大きなメリットを感じています」(川上氏)

Tableau のスキル習得を通じて人材を育成し、組織全体でデータ分析の効率と品質、訴求力を向上させた愛仁会。今後の展開について田中氏は、Tableau Desktop Specialist の資格取得をはじめとするユーザーのさらなる拡大や、一部施設で利用している Salesforce との連携などの具体策を挙げた上で、次のように締めくくりました。

「最終的な目標は、そうした施策や活動を通じ、設立以来のデータドリブンな組織文化をいっそう定着させることです。それに向けて私たち推進側は、これまでメインの分析対象だった収入や患者数だけでなく、人事情報や財務情報、診療自体を評価する臨床指標などのデータを Tableau にどんどん取り込み、分析したい人が Tableau にアクセスすればどんなデータでも揃っている、という環境を整備したいと思っています」(田中氏)

経営層や現場からの分析依頼に対応するだけでなく、自らもデータを多角的に分析・考察し、「データからこういうことがいえるので、今後こうしていきましょう」と戦略を立案できるようになりたいと考えています。

※ 本事例は 2023 年 11 月時点の情報です

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