導入後4年でユーザー1万人、年間8万時間の業務負荷削減を達成|株式会社三菱UFJ銀行

取引状況や営業実績をダッシュボードで可視化

導入の背景

ビッグデータ基盤を構築するも業務利用が十分進まず、BIツール刷新が急務に

株式会社三菱UFJ銀行は、2021年度より中期経営計画の三本柱の一つに「企業変革」を掲げ、「挑戦とスピード」をテーマに“自ら考えて行動するカルチャー”の醸成を進めてきました。そして、そのために必要な取り組みとして重視しているのが、全社的なデータ利活用の浸透と習慣化です。

もともと同行では、MUFGベースの個人約3,400万人、法人約100万社という国内最大規模の顧客基盤を背景として膨大なデータにもとづき、経営判断や意思決定などが行われてきました。

一方で、長く利用してきたオンプレミスの情報システムでは、データの蓄積・管理に多大なコストを要することから、日次のデータは短期間で、月次・年次のデータでも5~10年で一部を捨てざるを得ないという課題を抱えていました。

そこで同行は2017年、クラウド技術を活用し、膨大なデータを長期間安価に蓄積できる、MUFG共通のデータ基盤の構築を決断。2019年12月にMUFGビッグデータ基盤「OCEAN」としてリリースしました。これにより、行内の各システムに蓄積されていた構造化データを1か所に集めるだけでなく、印鑑票や口座振替依頼書といった非構造化データをも収集・管理できるようになったのです。

その上で同行は次のステップとして、構築したビッグデータ基盤を有効活用するための新たな手段の獲得に乗り出しました。デジタル戦略統括部 AI・データ推進グループ 次長の山田雅之氏は、「OCEAN」構築以前のBIツールの利用状況をこう振り返ります。

「あるBIツールを導入していましたが、単にシステムからデータをダウンロードするツールとしての利用にとどまり、データの加工や分析はAccessやExcelなどで行っていました。そのため、データの取得・更新・加工に手間がかかる、扱えるデータ量に限界があるなどの問題により、個別の分析や新しい切り口での可視化を行う余裕はなく、また意思決定に至るまでのスピード感に欠けていました」(山田氏)

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Tableau 選定の理由

大量データを扱えるパワフルさ、直感的な操作性、学びやすさが決め手

同行はそうした状況を踏まえ、ビッグデータの利活用を全社的に進めるためのBIツールを模索しました。選定のポイントとして特に重視したのは、レスポンスの速度と操作性です。それらの観点からさまざまな製品を比較検討し、最終的に選んだのがTableauでした。

「Tableauは非常にパワフルで、大量のデータでも読み込みから描写までを迅速に行うことができます。また、直感的な操作でデータを簡単に可視化・分析でき、かつ操作や活用のノウハウが巷に溢れていて学習しやすい。最終候補としてTableauを含む2製品にしぼり、30人ほどのユーザーに使い比べてもらってアンケートを取ったところ、Tableauを支持する意見が圧倒的多数だったため、導入を決めました」(山田氏)

Tableau の導入・展開

推進チーム主導でメリットを実感させ、自走可能な人材を育成

2020年、Tableauを導入した同行。とはいえ、業務利用がすぐに広がったわけではありませんでした。銀行というビジネスの特性上、数値の正確性はきわめて重要です。そのため当初は、慣れ親しんだ従来の業務手順を捨て、行内で実績のないTableauを使い始めることに対し、前向きでないユーザーが多かったそうです。

そこで山田氏をリーダーとする6人の推進チームは、Tableauの有用性を実感してもらうため、20部署ほどのユーザーに対してデータに関する困りごとをヒアリングし、自ら手を動かして既存のデータ関連業務をTableauに置き換えていきました。データの取得から加工、レポートの作成まで、従来月間数十時間かかっていた作業を自動化し、かつデータを単なる数字の羅列ではない、わかりやすいビジュアルで表現する。そうした推進チームの地道な取り組みにより、行内ではTableauのファンが徐々に増えていったのです。

推進チームは次のフェーズとして、ダッシュボードを自分で作成できる人材の育成に着手。最初は各部署の上長が指名した約60人に対し、自部署の課題をTableauで解決することをミッションとする兼務発令を出し、推進チームのメンバーがサポート役としてTableau Creatorの操作法や活用法を教える、CoE体制(Center of Excellence)をスタートしました。兼務者は毎週1日、推進チームメンバーの隣に座ってコミュニケーションを取りながら、実践形式でスキルを身につけました。

そうして育成された約60人の人材が、各部署で実際にTableau Creatorを活用しながら周囲にも使い方を教え、さらにユーザーを増やしていきました。拡大のスピードは想像以上に速かった、と山田氏は喜びます。

「いわゆる孫弟子、ひ孫弟子は着実に増え、今ではTableau Creatorユーザーが約1,000人、データ活用の必要なほぼ全部署にあたる約70部署に浸透しました。兼務メンバーからは『本業以上に楽しい』『Tableauを使いこなせてうらやましいと周囲にいわれる』という言葉が多く聞かれ、Tableauによる業務改善効果を実感してもらえているのが本当にうれしいですね」(山田氏)

Tableau の活用

営業店ダッシュボードのリリースでユーザー1万人まで一気に拡大

同行では、そうしたコアユーザーに加え、Tableau Viewerでダッシュボードを利用するユーザーも飛躍的に増加しました。それに大きく貢献したのが、推進チームによって2022年にリリースされた「営業店ダッシュボード」です。

推進チームは、営業店における自走的なデータ活用を促進するため、それまで本部から営業店へExcelで配信していた月次データをTableauでダッシュボード化。預金・貸出残高などの取引状況や、営業店の業績などが可視化された結果、国内約400営業店の行員が日常的な営業活動に利用するようになったのです。

今では、銀行全体で約1万人が利用するまでになりました。

「営業店の現場では従来、大量のExcelの中から営業に必要なデータを探すのに時間を要し、最適なタイミングで活動に活かすのが難しい状況でした。今は、朝一番にダッシュボードで必要なデータを即座に確認し、お客様への的確な提案や効率的な営業活動につなげるという、スピード感のある意思決定・行動が可能となっています。一方の本部では、膨大な工数を要していた月次データの作成がなくなり、空いた時間で新たなことに挑戦する余裕が生まれています」(山田氏)

まさに「挑戦とスピード」というテーマに沿った変革を遂げつつある同行。デジタル戦略全般を統括する、取締役常務執行役員 リテール・デジタル部門長兼CDTOの山本忠司氏は、そうした現状を高く評価します。

「営業店を訪れると、支店長以下の会議で業績の確認や戦略の立案に『営業店ダッシュボード』を使っている場面によく遭遇するようになり、Tableauとデータ活用の浸透を実感します。逆に、経営側での活用はまだ十分ではありませんが、こういうツールはトップダウンで導入しても現場で使われないパターンが多いので、まずは現場での利用が広がるというのは非常にいい動きですし、この流れを止めずさらに推進していきたいと考えています」(山本氏)

朝一番にダッシュボードで必要なデータを即座に確認し、お客様への的確な提案や効率的な営業活動につなげるという、スピード感のある意思決定・行動が可能となっています。

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Tableau 導入の効果と今後の展開

年間約8万時間の削減効果、他業態・海外拠点への展開も進行中

同行では、定量・定性の両面において大きな導入効果が出ています。たとえば、Excelなどを用いた手作業に多大な工数を要していた、データの取得・加工・可視化が自動化された結果、業務時間は年間で約8万時間削減されました。

「自動化された作業の中には、専任担当者を1人配置して年間約2,000時間を費やしていたものもあります。作業から解放された担当者は、本来やるべきなのにできていなかった業務や、手動では不可能だった新たなデータ活用に時間を割けるようになっています」(山田氏)

さらに、そうした改善効果や好事例がコミュニティなどを通じて行内で共有されることによって、データ活用に対する行員の意識は全社的に変わってきた、と山田氏は指摘します。

「データ活用のメリットや楽しさが広く共有されたことで、データ関連のスキルを身につけて自分の強みにしよう、『挑戦とスピード』というテーマを実践しよう、という志を持つ人が格段に増えました。継続的に実施しているTableau Explorerの1日研修には、この半年間で約1,000人が参加しています。本部の作った営業店ダッシュボードを使うだけでなく、自分の営業店ならではのダッシュボードの作成にも挑戦したい、という人も出てきています」(山田氏)

Tableauユーザー2万人突破を目指し、現在も普及活動に力を入れている同行。今後の展開として、CRMとして導入予定のSalesforceの画面にTableauのダッシュボードを埋め込み、顧客との交渉経緯などの把握・分析を可能とする仕組みを2025年4月から利用開始する予定です。また、これまで国内の銀行でTableauを活用してきた成果を踏まえ、信託・証券などの他業態や、海外拠点への展開を進めていく計画です。山本氏はいいます。

「アジアの拠点への展開を始めたところ、やはりTableauは非常に使い勝手がよいので、早くも本格的に利用されるようになっています。加えて、今後の展開としてもう1つ大事だと考えているのが、TableauとAIの連携です。TableauのAI化が進めば、きれいに整備されていないバラバラのデータでも利用できるようになり、新たな展開が見えてくるだろうと期待しています」(山本氏)

営業店を訪れると、支店長以下の会議で業績の確認や戦略の立案に『営業店ダッシュボード』を使っている場面によく遭遇するようになり、Tableauとデータ活用の浸透を実感します。

※ 本事例は 2024 年 9 月時点の情報です