オープンデータ推進のプラットフォームとしてTableauを活用

オープンデータの可視化が容易に

探索的なデータ分析が可能

社会経済全体の発展に寄与するものとして、大きな期待が寄せられている「オープンデータ」。政府もその重要性を強く意識しており、2016 年には「官民データ活用推進基本法」において、国と地方公共団体がオープンデータに取り組むことを義務付けています。これによって国民参加・官民協働の推進を通じた諸課題の解決や、経済活性化、行政の高度化・効率化等が期待されているのです。

このような流れの中、2019 年4 月に「ひょうご・データ利活用プラン」を策定したのが兵庫県です。これは、県民が創造的活動に最大限能力を発揮できるデジタル社会を構築することで、「産業のイノベーションの創出」や「多様で質の高い暮らし」の実現を目指すもの。民・産・学・官の各主体が最先端のICT を基盤に、多種多様なデータの利活用に取り組む際の指針となっています。

その推進において中心的な役割を担っているのが、兵庫県 企画県民部 科学情報局 情報企画課です。「データ分析や活用はこれまでも取り組んできましたが、以前は大半がExcel で分析されており、データ活用のたびに集計やグラフ作成が必要だったため、迅速性や効率性に課題がありました」と振り返るのは、情報企画課で主査を務める近藤 直樹 氏。一部の政策・統計部門では専門性を有する職員が統計解析ソフト等を利用していましたが、属人的で他部署への展開が困難であり、データや成果の共有が難しいという問題も抱えていたと言います。

このような状況の中、オープンデータの推進方策を他の自治体職員と議論した際に、紹介されたのがTableauでした。その後、前述の課題を解決できる可能性を感じ、トライアルを実施。2020 年4 月にはその最初の活用例となる「兵庫県_交通事故発生状況」ダッシュボードを、Tableau Publicで公開することになるのです。

Tableau は表示が一瞬で切り替わります。触っていて「おおっ」と声が出てしまいました。データを地図上に載せやすいことも驚きました。兵庫県ではGIS の利活用も推進していますが、Tableau なら市区町村名や緯度経度のデータがあれば、簡単にデータを地図上で色塗りしたりプロットしたりできます

Tableau の導入・運用環境について

「オープンデータでは、機械が判読しやすい形式で数値や文字のデータを公開することが大切ですが、これに加えて、グラフや地図等に可視化することで、よりわかりやすい情報発信ができると考え、ダッシュボードを公開することにしました。」と近藤氏。基本的な操作は書籍で学び、独学だけでは難しい応用的な操作については、Tableau Doctor を活用したと説明します。「またダッシュボードの作成にあたっては、仮説や『切り口』を持っている事業部門の意見を聞き、何度かやり取りして修正を加えていきました」。

その後も県政150 周年記念事業における「県民連携事業の実施状況」に関するダッシュボードや、「将来人口推計ダッシュボード」をTableau Publicで公開。さらに2020 年10 月には「兵庫健康Data ダッシュボード」も公開しています。

「これは厚生労働省より提供されているレセプト・特定健診等情報のナショナルデータベース(NDB)より作成した健診結果や生活習慣に関するデータと、健康寿命や平均寿命、主な死因などのデータをもとに、市町別の状況を様々なグラフや地図で可視化したものです」と説明するのは、兵庫県 健康福祉部 健康局 健康増進課 で主任を務める田村 安理沙 氏。このような「データヘルス」への取り組みは以前からも行っていましたが、従来はExcel で加工したデータをDVD と冊子で配布しており、なかなか活用が広がらなかったと振り返ります。「そこでデータ提供方法について情報企画課に相談、そこで提案されたのがTableauでダッシュボードを作成することだったのです」。

データヘルスを推進するため、健康増進課では「健康寿命の延伸を目指したデータ利活用推進研修会」というワークショップも開催。これは健康・介護・福祉部門の市町職員・県職員や、データに基づく政策立案を推進する政策・企画、情報政策部門等の市町職員・県職員を対象にしたものであり、2020 年11 月から2021 年1 月にかけて、合計3 回に分けて行われています。その内容は、健康・医療・介護データの説明やデータ利活用の流れの紹介、課題解決プロセスの実践、さらにはデータを活用した政策立案までをカバー。主にオンラインで実施されました。

「オンラインなのでなかなか参加者の温度感を共有することが難しかったですが、それでもTableau のダッシュボードを使って会話を行うことで、課題感が共有しやすくなるという手応えを感じました。ワークショップではTableau だけではなくExcel も使っていますが、Tableau のダッシュボードは他の市町と比較できる作りになっているため、各市町が自分たちの課題を掘り下げやすくなったようです。実際にこのワークショップでは、約40 の自治体内で組織横断的なチームを作り、兵庫五国ごとのセッションで、データ分析による課題の掘り下げとその発表も行っています」(田村氏)。

Tableau 選定の理由について

それではなぜこれらのデータ提供手段としてTableau を選択したのでしょうか。いくつかの理由があると近藤氏は説明します。

まず挙げられたのが、操作性やデザインです。Tableau はデータを可視化する際のデザインが美しく、操作も直感的に行えるため、属人性を排除しながら高度なデータ分析を実現できると期待されたのです。

またTableau Public が用意されており、作成したダッシュボードの公開が容易なことも評価されました。「Tableau Public に関しては他の自治体のユースケースもあり、これならオープンデータ推進に役立つと感じました。またダッシュボード上で探索的なデータ分析も行えるため、政策立案者への支援ツールとしても効果的に活用できると評価しました」(近藤氏)。

さらに、壁にぶつかったときに解決を支援してくれるTableau Doctor の存在も、活用を後押ししたと語ります。

「例えば兵庫健康Data ダッシュボードを作成した時は、各市町のデータと、全県平均を計算して並べて表示する必要がありましたが、独学ではその方法がわかりませんでした。しかしTableau Doctor は即座に実現方法を教えてくれます。兵庫健康Data ダッシュボードの作成では2 回お願いしましたが、この支援がなければ、表現したいことの一部は諦めていたかもしれません」。

Tableau の導入効果について

オープンデータの可視化が容易に

Tableau はデータやダッシュボードの共有機能が優れており、Tableau Public による公開も可能です。そのためオープンデータとの親和性が高く、その推進に大きな貢献を果たしています。

探索的なデータ分析が可能

Tableau のダッシュボードは、データの全体像の把握が容易な上、ドリルダウンで掘り下げながら分析を進めていくことも、直感的に行なえます。そのため探索的なデータ分析によって、これまでわからなかった新たな知見を得ることも容易になっています。

コミュニケーションの共通基盤としても貢献

Tableau のダッシュボードを共有することで、同じデータを見ながら会話を深めることができます。これによって関係者がエビデンスに基づき課題感を共有でき、適切な政策立案につなげられると期待されています。

今後の展開について

現在導入されているライセンスはTableau Creator × 1 であり、ダッシュボード作成を行っているのも近藤氏だけという状況です。しかし今後はTableau 活用を、各事業部門へも広げていきたいと近藤氏は語ります。

「そのために、自治体のおけるICT ツールの活用事例を紹介する『見本市』や、Tableau に特化したハンズオン研修、参加者が主体的にものを作る『もくもく会』などを実施する計画です。すでに見本市は2021 年2 月に開催する予定になっており、ハンズオン研修はTableau と相談しながら進めていきたいと考えています」。

最終的に目指すのは、データ分析の専門家ではない現場の人々が、外部委託せずに自らの手でデータを活用する「データの民主化」の実現です。「これこそがデータ活用のあるべき姿であり、そのハードルを下げていくことが情報企画課の役割だと考えています。Tableauはそのための重要なプラットフォームなのです」。

Tableau によって仕事の武器が1 つ増えました。健康増進課だけではなく、一昨年くらいから他部署からICT やデータ利活用の相談を受けることが増えていますが、従来では思いつかなかった方法を提案できるようになっています。お金や時間をかけずに自分自身でデータの分析・発信ができるので、個人的にも仕事をしていて面白いと感じています