攻めのIT によるDX の実現 -「デジタル民主化」の武器としてTableau を活用 -
レポート作成時間の削減
システム構築のパラダイムシフト
2018 年7 月に「旭硝子株式会社」から現在の社名へと変更し、“Look Beyond” という企業理念のもと、将来を見据えた活動を積極化しているAGC株式会社。グループ全体のブランドステートメントとして“Your Dreams, Our Challenge” を制定し、世界中の人々の夢の実現に挑戦しています。
「AGCには多岐にわたる事業があり、情報システムも様々なものが存在します」と語るのは、AGC 情報システム部で部長/ グローバルIT リーダーを務める伊藤 肇 氏。以前はこれらのシステムから抽出したデータをExcel で集計・加工していたと振り返ります。「この作業に8 割の時間が費やされており、分析・仮説・検証といった考える時間が2 割しかないという状況でした。その結果、データ利活用のレベルがなかなか上がらなかったのです」。
そこでAGCの情報システム部ではガートナー社が発表しているハイプサイクルなどを参考にしながら、どのような形でデータ利活用を進めていくべきかの検討が進められていきました。その結果導き出されたのが、システム統合を行いデータの入り口から着手するという王道アプローチではなく、システムはバラバラのままでも、集めたデータから有用な示唆を導出できる分析基盤を「最短ルート」で構築するという方法でした。時間をかけてデータを統合するより先に、後者に着手する方が価値があると判断されたのです。
2015 年4 月にはそのためのBI プラットフォームとしてTableau を導入。しかし、新たな分析ツールを待望していたユーザーには好評だったものの、それ以外のユーザーにはなかなか受け入れられてもらえない状況が続いたと伊藤氏は語ります。
「導入してから2 年間はイノベーターやアーリーアダプターに受け入れられる段階でとどまり、マジョリティへの普及の前には大きな壁が立ちはだかっていました。このとき、プラットフォームが良いだけでは普及しないということを、痛感したのです」。
情報システム部ではクラウド化を推進するなど、仕事の質の変革に積極的に取り組んできました。BI プラットフォームの確立もその1 つです。守りのIT だけでなく、ビジネスに貢献する攻めのIT を実現することが我々のミッションです。Tableau はそのための重要な武器の1 つとなっています
Tableau の導入・運用環境について
そこで2017 年には壁を乗り越えるための取り組みをスタート。まず行われたのが、マジョリティに訴えるための草の根プロモーション活動でした。
「まず、すでにTableau を活用しているユーザーに依頼し、成功事例をお披露目する事例共有会を開催しました」と語るのは、AGC 情報システム部 グローバルIT 戦略室でマネージャーを務める田中 丈二 氏。この事例共有会には約100 名の社員が参加し、参加後のアンケートでも「Tableau について全く知らなかったので目新しかった」「成果への最短ルートかもしれないと感じた」など、前向きなコメントが多く寄せられたと言います。
その後、AGC独自のTableau カリキュラムを作り上げた上で「Tableau Boot Camp」という社内講習会もスタート。トータルで280 ページ以上、30 を超える演習が盛り込まれたオリジナルテキストを作成し、月に1 回のペースで開催されています。その後このカリキュラムは大幅に拡充され、現在ではオリジナルテキストのボリュームが1,000 ページに達しており、8 段階のコースが提供されています。ここまで充実したカリキュラムを用意しているユーザー企業は、日本国内の製造業としては珍しいと言えるでしょう。
「この他にも、情報システム部がユーザーと伴走しながらTableau 活用を支援する取り組みも行っています」と田中氏。ここで重視しているのは、利用部門が自分の手でViz を作り上げることだと説明します。「誰かを介さねば分析ができないというのでは、Tableau のメリットを生かせません。デジタル民主化を実現するためには情報システム部員ではなく、ユーザー一人一人に主役になってもらうことが必要なのです」。
このような取り組みの結果、Tableau 活用は急速に拡大。現在では社内のほぼ全ての部門で利用されており、ユーザー数は2,800 名に上っています。
「ここまで普及したのは、Tableau に関する社内教育がかなり手厚かったからだと思います」と語るのは、以前は利用部門でTableau 活用推進を担当し、現在はAGC 情報システム部 IT コンピテンスセンター コミュニケーショングループでマネージャーを務める筒井 誠 氏です。情報システム部門が積極的に働きかけてくれたことが、自律的な活用拡大に大きな貢献を果たしていると指摘します。「最近ではテレワーク導入もあり、教育の形式も変化しつつあります。以前はオンサイトと中継を組み合わせていましたが、その後Web 会議が利用されるようになり、現在ではe ラーニングも行われています」。
Tableau 選定の理由について
それではなぜ自律的なデータ利活用のプラットフォームとして、Tableau が選ばれたのでしょうか。田中氏は次の3 点をその理由として挙げています。
1.複数システムとの接続性
AGCは事業が多岐にわたるため、社内システムも数多く存在します。また組織の統廃合によってシステムが変化することも多く、ユーザー部門が自らデータベースを立ち上げるケースも少なくありません。これらのデータソースから直接データを吸い上げて分析を行うには、接続性の高さが不可欠です。Tableau には幅広いコネクタが用意されており、多様なデータソースへの接続がサポートされています。
2.簡単かつ軽快な操作性
ユーザーに自律的に使ってもらうには、プログラミングなどの高度な知識がなくても使いこなすことができ、使い勝手も軽快なものが必要です。これに関してもTableau は、期待に十分応えられるものだと評価されました。
3.スモールスタートが可能な料金体系
Tableau は柔軟性の高い料金体系となっており、小さく始めて段階的に利用を拡大することが容易です。「使いこなした時に十分な投資効果が感じられる操作レベル」を目標に社内教育のカリキュラムを構成しています。
レポート作成のセルフサービス化に加えて、一部のユーザーはTableau Prep Builder を利用したデータ準備についてもセルフで行う状況になってきています。意思決定に必要なデータをタイムリーに提示するためには「デジタル民主化」の範囲を常に拡大する必要があると認識しています。
Tableau の導入効果について
すでにAGCでは数多くの事業部門でTableau が活用されており、以下のような効果をもたらしています。
レポート作成時間の削減
以前はレポート作成に8 割、それをもとに考えるのに2 割という時間配分でしたが、これが完全に逆転しています。その結果、データにもとづくPDCA サイクルを、以前よりも高速に回せるようになっています。
システム構築のパラダイムシフト
以前は帳票画面を1 つ作るだけで、ユーザー要望のヒアリングから要件定義、設計、構築まで、数か月かかるのが当たり前でした。しかしTableau 導入後は、まずはViz を作りレビューをした上で、問題があれば作り直すというアプローチに変化しています。これによって1 日に複数回レビューと修正を繰り返す、といった極めて俊敏な開発も可能になっています。
データ活用に対する発想の広がり
「事業部門が自らViz を作成して活用することで、活用されるデータそのものにも広がりが出ています。情報システム部門から見ると「そんなデータも分析対象になるのか」と、驚くような活用をしているユーザーも少なくないと言います。
データベースと直接つながることに感動しました。SQL 文を書けない人でも、中上級者レベルのデータ抽出を行える点は革命的です。併せて直感的な操作でビジュアル分析ができる。これが両方できるツールはこれまでになく、既存のツールとは全く別物だということが理解できました
今後の展開について
「事業部門がセルフサービス型でTableau を使えるようにしたことで、データを自らの手で操作する『デジタル民主化』が進展しています」と田中氏。これに伴いDX も加速しつつあると語ります。その取り組みが評価され、2020 年8 月には、経済産業省が東京証券取引所と共同で選定する「DX 銘柄2020」にも選出されています。
「すでに国内ではTableau によるデータ利活用が進んでいますが、今後は海外でも同じレベルまで引き上げていきたいと考えています」と伊藤氏。そのためには情報システム部門も、継続的に仕事の質を変えていく必要があると語ります。「『脱皮できない蛇は死ぬ』、これは哲学者ニーチェの言葉ですが、IT 部門も同様だと思います。私たちが果たすべき役割は、システムではなく付加価値を提供すること。そのための重要な武器の1 つがTableau なのです」。