「データ民主化」を可視化で加速するため Tableau を導入

社内コミュニティの取り組みで現場活用を積極的に拡大

導入の背景

現場での一貫性のある意思決定にはデータ活用が不可欠

1948 年に世界で初めて魚群探知機の実用化に成功して以来、舶用電子機器分野で数々の世界初・日本初の商品を提供し続けてきた古野電気株式会社。独自の超音波技術と電子技術を武器に市場を拡大し、現在では世界 80 か国以上に販売拠点を展開する、世界規模の舶用電子機器総合メーカーとしてのポジションを確立しています。提供している舶用機器は魚群探知機・ソナーの他、船舶用レーダー、AIS(船舶自動識別装置)、ECDIS(電子海図情報表示システム)、衛星通信装置など多種多様。また舶用機器のみならず、GPS/ETC 関連製品、生化学自動分析装置や超音波骨密度測定装置などのヘルスケア製品、無線LAN などの電波環境試験サービスなども手掛けています。

このように高い技術力と製品化力を持つ古野電気ですが、もう一つ注目したいことがあります。それは「データの民主化」への取り組みに、いち早く着手していたということです。

「以前は意思決定を感覚に頼っていたため、現場での意思決定も上司や上長に頼ってしまう傾向がありました」と語るのは、古野電気 IT データマネジメント課で課長を務める三上 朗 氏。現場での判断が事業部長クラスに委ねられることも、少なくなかったと振り返ります。「これでは変化し続ける状況に対して、迅速に対応することができません。誰がやっても一貫性のある適切な判断ができる仕組みを確立するには、現場でのデータの活用が欠かせないと感じていました」。

その取り組みを始めるきっかけとなったのが、2013 年の SAPERP の導入だったと三上氏。この導入プロジェクトは三上氏の上司がリーダーとなって進められていきましたが、その最大の目的は当初から「SAP 導入そのもの」ではなく、そこに蓄積されるデータを活用することだったと言います。

「SAP ERP の導入前は約 130 もの帳票がありましたが、どれが重要な帳票なのかがわからない状況であり、すでに使われなくなった帳票も数多く残っていました。そこでまずは、SAPERP 内のマスター・トランザクションすべてのデータを Business SPECTRE に抽出し、これをもとにSAP AnalysisServices でデータキューブを生成、このデータキューブに Excel からアクセスし、ピボットテーブルで躊躇なくデータをいじることができる環境を整備しました」(三上氏)。

データキューブの生成ではユーザーの使いやすさに配慮し、整合性の取れた36種類の分析軸を整備。分析のためのフォーマットも現場の意見を聞きながら、経理視点、営業視点など様々なバリエーションで作り続けていたと三上氏は振り返ります。しかし実際には、「帳票」としての利用が主で、業務現場での自由分析としてのデータ活用はなかなか進みませんでした。

「以前は 2 次元でしか表現できなかったデータが 3 次元で表現できるようになれば、それを活用することで変化を捉えるスピードが速くなると期待していました。しかしそれを現場に浸透させるのは、決して簡単ではなかったのです。そこで戦略的に、次のステップに進めるべきだと考えました。その鍵となるのが可視化だったのです」。

 

Tableau の導入・運用環境について

可視化のためTableau を導入、社内コミュニティにも取り組む

SAP ERP 導入から 2 年経過した 2015 年には、データキューブの可視化をいかにして強化するか、という検討に着手。ここで複数の BI 製品を検討した結果、2015 年秋に Tableau が採用されることになります。

ここでまず行われたのが、ERP 運用管理チームによる先行活用でした。現場の意見を聞く前に、まずは自分たちで Tableau を使い倒していくことで、何ができるのかが確認されていったのです。「すでにデータキューブとして存在していた販売データを使い、自分たちの想像力を駆使して、数多くのダッシュボードを作成しました」(三上氏)。

出来上がったダッシュボードはノート PC で社内の休憩室に持ち込み、他の部門の従業員に披露。ここでフィードバックをもらい、さらに改善していくという作業が繰り返されていきます。「当時はデータキューブへのアクセスに Tableau Creator が必要だったので、各部門に対して Creator ライセンスを配布する、という取り組みも行っています。しかし Creator が手元にあっても、なかなかダッシュボードを開いてもらえないという状況が続いていました。このまま Creator ライセンスを増やしていってもコストがかかるだけだと考え、2017 年には Tableau Server を導入し、ERP 運用管理チームが作成したダッシュボードを Viewer で見てもらう環境も整備。これと並行して問い合わせ窓口も設置しました」。

このような取り組みを行っても、Tableau を積極的に活用するユーザーはなかなか増えていかなかったと三上氏。ところが、2019 年に IT 部門の組織変更があり、より多くの人員をアサインできるようになったことでこの状況が大きく変わったと語ります。この新体制のもとで 2020 年 4 月に始められたのが、上層部へのアピールでした。「上司が Tableau を自分自身で使いそのメリットを理解していれば、現場の活用ハードルも下がるはずです。そこで、前日の受注実績のダッシュボードを上層部にメールで送り、まずは Tableau を毎日見てもらうことにしたのです」。

この活動は大きな効果をもたらします。始めてからまもなく副社長から連絡があり、「もう少し詳しく聞きたい」と言われることになるのです。三上氏のチームはこのチャンスをつかみ、経営会議で Tableau を使う、という流れを作り出していきます。これと並行して行われたのが、社内コミュニティへの取り組みです。上層部のアピール開始と同じ時期に、Microsoft Teams に「Tableau チーム」を作成、ここで IT 部から情報発信すると共に、ユーザーからの問い合わせにも対応できるようにしたのです。この窓口は完全にオープンな状態で運営されており、誰がどのような質問をしたのか、どのような回答が行われたのかが、誰にでもわかるようになっています。

2021 年 10 月には社内ポータルサイトによる情報発信もスタート。Tableau の始め方や、社内の事例、社内データやダッシュボードの紹介などが進められていきます。2021 年 11 月には社内の事例共有会も大々的に開催され、オンサイト・オンラインを含め、合計 100 名以上が参加。2022 年 4 月からは月に 1 回の「よろず相談会」も実施されています。

「社内コミュニティへの取り組みで参考にしたのは、Tableau の Blueprint です。2021 年 6~7 月に Blueprint Committee に参加し、これまで自分たちに足りないことは何だったのか、これからできることは何かを徹底的に考えた上で、ポータルや事例紹介などを企画していきました。Blueprint のいいところは、これまで断片的に考えていた『何をやるべきか』について、体系的かつ順序立てた状態で明確化されていることです。これによって、どういう順番で、どこにどれだけのパワーを掛けるべきなのかが、はっきりとイメージできるようになりました」(三上氏)。

データを解析していけば、故障の傾向や原因などが可視化され、予防保守や修理時間の短縮につなげることが可能になります

Tableau 選定の理由について
セルフ BI を後押しする、熱いユーザーコミュニティ

それではなぜデータの可視化手段として Tableau が選ばれたのでしょうか。大きく 3 つの理由があったと三上氏は説明します。第 1 は、セルフ BI を実現しやすいことです。「実は MicrosoftPower BI も検討していたのですが、きちんと使うには要件定義や IT 部門による手助けが必要だということがわかりました。これに対して Tableau は、そのようなことを行わずに使い始めることができます。データの民主化を進める上で、このような特徴は不可欠だと判断しました」。

第 2 は、直感的に操作でき、可視化の表現力も豊かなことです。「実際に触ってみて、操作に迷うことはありませんでした。『思考を止めない』という Tableau の設計思想が、しっかりと製品に落とし込まれていると感じます」。

そして第 3 が、会社の枠を超えたデータリーダーたちが集まり、Meetup、勉強会、交流会等を実施する「Tableau ユーザーコミュニティ」が活発なことです。「Tableau のコミュニティには、Tableau 社が主催するものもあれば、そうではないユーザー独自のものもあります。このような多様なコミュニティは、他のBI 製品には見られないもので、セルフ BI を推し進めるうえで非常に重要なものです」。

Tableau を使っているとデータの面白さや奥深さを感じることができます

Tableau の導入効果について
ワークブックは 2 年で 2 倍以上に、現場の意思決定にも大きく貢献

社内コミュニティへの取り組みを加速した結果、Tableau を活用する現場ユーザーの数は着実に増加しており、成功事例も続々と登場しています。「Tableau Server にパブリッシュされたコンテンツの数はこの 2 年間で 2 倍以上になり、2022 年 7 月時点では 555 ワークブックに上っています」と三上氏。ここではその中から、2 つの部門の事例を紹介します。

舶用機器事業部 営業企画部 事業企画課の事例

1 つ目は、舶用機器事業部 営業企画部のケースです。ここは、舶用機器事業部の企画業務を行っており、市場環境のデータや社内の販売実績、他社の経営情報などを日常的に扱っています。

「様々な情報の中から現場の実情や課題をデータで見える化するため、営業部門や開発部門の現場担当者と共同で、必要なデータを作り込んでいます」と語るのは、事業企画課で課長を務める大洞 正嗣 氏。その中でも特に評価が高いのが、自社製品の装備実績やサービス履歴に関するデータを可視化したダッシュボードだと言います。

「このダッシュボードでは、どのお客様がどの船に当社のどの製品をいつ装備されたのか、そして、その後どのようなサービスが誰によって行われたか、といったことを分析できるようにしています。安心安全な航海の実現ためには、建造から廃船まで船舶に搭載された航海機器が常に健康な状態で動作することが不可欠です。船舶のライフサイクルをトータルサポートするためにライフサイクルデータの見える化は重要な意味を持っています」(大洞氏)。

それでは実際にダッシュボードを作成してみて、Tableau に対してどのような印象をお持ちなのでしょうか。ダッシュボード作成を担当した事業企画課の冨士井 佐智子 氏は、次のように述べています。

「ダッシュボードは営業担当者にヒアリングしながら作り込んでいますが、Tableau を使っているとデータの面白さや奥深さを感じることができます。営業担当者からは時々『こんなことができるのかな』と思われるような難しいことを言われることもあるのですが、Tableau の機能を調べてみると次第に実現方法が見えてきて、まるでクイズを解くような面白さなのです。大量のデータと大量のデータを組み合わせることで、これまで見えなかったものが見えてくることも少なくありません。表示されるグラフもきれいで見やすく、クリックしていけばどんどん詳細へと掘り下げられます。複雑なダッシュボードを営業担当者とやり取りしながら作成するには1週間程度かかりますが、簡単なダッシュボードなら 1~2 時間で作成することも可能です」。

大洞氏も「これまで Excel では諦めていた分析も、Tableau なら簡単に実現できます」と言及。元になるデータさえあれば、どのような分析・可視化ニーズにも対応できる、という手応えを感じていると言います。

もちろん社内コミュニティも、重要な役割を果たしています。「Teams に質問を投稿すればすぐに回答してもらえますし、過去の似たような質問と回答も参考になるので、頻繁にアクセスしています。また他の部門が作成したダッシュボードを参考にすることもあります。最近ではストーリー機能を使ったケースを見つけたのですが、自分たちも使ってみたいと思っています」(冨士井氏)。

 

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舶用機器事業部 サービス統括部 テクニカルセンターテクニカルサービス係の事例

サービス統括部 テクニカルセンター テクニカルサービス係は、社内の技術員や国内外の代理店などからの技術的な問い合わせに対応する部門です。また社内技術員や国内外の代理店に対する技術研修も担当しています。Tableau に関しては、IT 部が作成したダッシュボードを Viewer で活用しています。

「約 1 年前から Tableau を活用していますが、主に見ているデータは、製品修理に関する情報です」と語るのは、テクニカルサービス係で主任を務める大西 秀和 氏です。機械はいずれ壊れることになりますが、その際にどの部品をどのように修理したのか、修理に要した時間はどれだけなのか、といった情報を見ているのだと言います。「このようなデータを解析していけば、故障の傾向や原因などが可視化され、予防保守や修理時間の短縮につなげることが可能になります」。

これに加えて「技術員や代理店からの問い合わせに関する情報も Tableau で可視化しています」と言うのは、テクニカルサービス係の笹本 純輝 氏。問い合わせを受けた際には、問い合わせに至った要因別にタグ付けを行っており、そのタグを分析することで、問い合わせ内容の傾向が見えてくるのだと説明します。「問い合わせの要因としては、故障に関係するもの、必要な情報が見つからないというもの、自分で調べる時間がないといったものなどがあります。このうち例えば、必要な情報がないという要因が多い場合には、どのような情報を追加で出すべきなのか、という判断に役立てることができます」。「更なる効果として、他部門との会話が増えていることも感じている」のだと、大西氏と笹本氏は言う。

「故障部品を修理する工場は別の場所にあり、以前はなかなか話をする機会がありませんでした。しかし Tableau で可視化した問い合わせ情報が全社で共有された後、修理課とは毎月コミュニケーションをとるようになりました。以前から、修理課とは連携する必要性を感じていたものの、データをとるのに苦労するため実施できていませんでしたが、Tableau によって簡単に互いの部門の状況を見れるようになったので、共通認識のもとで話し合うことができるようになりました」(大西氏)。「また新製品開発の段階で、故障データや問い合わせデータを使った提言を、開発部門に行うことも増えています。以前は会議の場でデータが求められた場合、持ち帰って集計し後日結果を提出することが多かったのですが、今ではその場でダッシュボードを見せながら議論を進められるようになり、検討の効率が上がりました」。

さらに笹本氏は「以前は Excel のピボットテーブルでゴリゴリやらなければならなかったことが、今では Tableau ですぐにできるようになりました」とも指摘。扱えるデータ量も、Excel では 1 年分のデータですら固まってしまうのに対し、Tableau なら 2~3 年分のデータでも問題なく扱えるため、データ分析作業は飛躍的にはかどるようになっていると言います。

「自分が以前にやっていた作業を思い出すと、その必要はなかったのではないかと悲しくなるほどです。自分たちでダッシュボードを作成する時間は忙しくてなかなか確保できませんが、今後も Tableau で部門横断で共有されたデータを活用しながら、具体的な成果につなげていきたいと考えています」。

 

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今後の展開について

目指すのは誰でもデータをもとに迅速に意思決定できる世界

このように Tableau の導入と社内コミュニティへの取り組みは、データの民主化に大きな成果を果たしつつあります。

「最近では Tableauの社内認知度も高まっており、データ活用に関する相談も『このデータを Tableau で可視化できないか』といったように、より具体的なものになってきました」と三上氏。ある部門が作成したダッシュボードを別の部門でも利用することで、情報や業務の橋渡しに使うケースも増えており、単に可視化するだけではなくそこから得られる知見を掘り下げ、次のステップにつなげようという動きも活発化していると言います。「もちろん全社レベルでこれができているわけではありませんが、今後はこのような部門をさらに広げていきたいと考えています」。究極の目標は、誰もがデータを自由自在に使いこなし、その結果にもとづいて誰でも適切な判断を下せる世界。Tableau はそのための重要な手段になっていると語ります。「データを使った判断が社内に広がっていくことで、製品開発や部材調達、営業戦略、顧客対応など、様々な業務がスムーズになっていくでしょう。これによって変化し続ける状況にも、的確かつ迅速に対応できる企業文化が醸成されると期待しています」。

最近では Tableau の社内認知度も高まっており、データ活用に関する相談も『このデータを Tableau で可視化できないか』といったように、より具体的なものになってきました