リスク・収益管理の工数を削減するためTableauを導入
定形レポート作成の工数削減
アドホックな分析がいつでも容易に
楽天グループの一員として、既成概念に捉われないユニークな発想で顧客の新たな保険ニーズに応え続けている楽天損害保険。従来の代理店チャネルでの保険販売に加え、楽天グループの顧客に対しても新しい方法で価値を提供すべく、日々進化を遂げています。2018 年度は未曽有の自然災害に見舞われた年となりましたが、前年比 55% 増となった年間事故受付件数に対し、年度末までに 99.7% 以上の支払いを完了。もしものときに頼れる損害保険会社として、重要な役割を果たしています。
契約者に対して確実に保険金を支払い続けるには、精度の高いリスク管理と収益管理を行い、経営の健全性を確保する必要があります。そのために楽天損害保険の数理部では、経営分析のための定形レポートを月次で作成。
「すでに BI ツールも導入されていましたが使うのが難しかったため、これらの作業は Excel 等を使った手作業で行われていました」と振り返るのは、数理部 数理部長(2018 年当時)の小川 達也氏。そのため膨大な工数と時間がかかっていたと説明します。「例えば月次の定形レポートの作成は、毎月 10 人日程度かかっていました。またデータ抽出や加工が属人的な業務となっていたため、分析の粒度を細分化したり、異なる観点から分析するといったことも困難でした」。
商品開発のためのアドホックなデータ分析にも時間がかかっていました。ユーザーが必要とするデータを集めるところからスタートしていたため、1 回の分析に 1 週間程度の準備期間が必要だったのです。そのためこのような要求に対応できる頻度は年に 4 ~ 5 回程度に限られており、追加分析の要求に対応することも困難でした。
以前は分析に関わる業務が数理部に集中していましたが、現在は各部で作業が行えるようになり、データの民主化が進みました。数字は集計して終わりではなく、そこからストーリーを見出すことが重要なので、このような変化は望ましいことだと思います
Tableau: Tableau の導入・運用環境について教えてください。
小川氏: これらの問題を解決するため、2018 年 12 月にデロイト トーマツ コンサルティングをパートナーに、分析基盤構築に向けたプロジェクトをスタート。ここで分析ツールとして選ばれたのが Tableau でした。
このプロジェクトではまず、分析対象のデータを集約するデータウェアハウス (DWH) を構築。ここに、保険契約データや保険金支払いデータ、経理データなど、経営分析を行うために必要な複数の基幹系データを、日次で抽出する仕組みを作り上げました。さらにそのデータを加工し、用途毎に Tableau 用データマートを作成。これらを Tableau 10.5 からサポートしている 「.hyper」 形式で Tableau Server に取り込み、インメモリ型で分析できるようにしました。
分析用のダッシュボードは Tableau Desktop で作成し、Tableau Server 経由で提供。ユーザーはこのダッシュボードに Web ブラウザからアクセスします。またユーザーが作成した Tableau の分析レポートは共有フォルダに格納されており、他のユーザーのレポートを参考にすることも可能です。
DWH の構築は 2019 年 2 月にスタート。これと並行して、2019 年 5 月には Tableau 関連のシステム構築にも着手しました。2019 年 7 月にはシステム構築が完了し、約 1 ヶ月のユーザー受入期間を経て、2019 年 8 月から利用を開始。説明会の実施や個別の質問対応等により、数理部以外の社員の使用促進を図りました。
このプロジェクトで目指したのは、数理部だけではなくほかの業務部門も当たり前のように数字を使えるよう、データの民主化を推進できる基盤を確立することでした。そのためユーザーにとっての操作感や処理スピードには、特に配慮しました。
Tableau: 今回のプロジェクトで Tableau を選定した理由を教えてください。
村上 将一氏(デロイト トーマツ コンサルティング): 当初は Tableau 以外の製品も検討していましたが、大きく 3 つの理由から Tableau の採用をお勧めすることになりました。
第 1 の理由は 「.hyper」 形式をサポートしていることです。これにより大容量データをサマライズすることなく、そのままの形で高速に Tableau へとインポートすることが可能。これがなければ、多面的な分析が可能なデータマートを日次で更新するといったことは、実現不可能だったはずです。
第 2 はユーザーインターフェースが直感的でわかりやすいこと。データの民主化を進めていくには、幅広い部門のユーザーが使えなければならないため、このような特長も必要不可欠でした。
そして第 3 が、すでに親会社である楽天も Tableau のユーザーだったことです。同社は「データドリブン型企業」になるべく積極的に Tableau を活用しており、2019 年 5 月に開催された Tableau のイベントでもその取り組みが発表されています。このような状況も、Tableau 採用を後押しする要因になりました。
Tableau: Tableau の導入効果を教えてください。
大栁 正宏氏(楽天損害保険 数理部): Tableau の導入は、楽天損害保険に複数のメリットをもたらしています。
1 つ目は、月次で作成している定形レポートの作成工数が、大幅に削減されました。以前は毎回 10 人日かかっていたものが、現在ではわずか 1 人時で完了するようになっています。
2 つ目は、定形レポートの他に、必要に応じてアドホックに行う分析も、実施しやすくなりました。このような分析の実施頻度は、以前とは比べ物にならないほど増えています。
3 つ目は、Tableau のユーザーインターフェースは直感的でわかりやすいため、データ分析の専門家でなくとも利用が容易です。そのため数理部以外の社員も、自らの手でデータ分析が行えるようになりました。
使えるデータも月次から日次へと鮮度が上がったため、必要であればデイリーでデータをチェックし、リスクの判断を行うことが可能です。今年は昨年以上に自然災害の多い年になりましたが、その影響を迅速に把握することが可能になりました。視点を変えた分析も容易になりました。階層化されたディメンジョン項目をドラッグ & ドロップするだけで、欲しいデータをすぐに可視化できます。
業務部門からも Tableau は高く評価されています。そのなかでも営業部門からは「Tableau を使用すれば、容易に営業数値が把握できるため、これを活用したい」という声が寄せられています。
Tableau: 今後の展開について教えてください。
小川氏: 今後は分析業務のパターン毎に定形レポートを作成し、これまで以上にスピーディな分析や可視化が行える環境を整えていく計画です。また Tableau の分析対象となる DWH のデータソースも、さらに拡充していくことが視野に入っています。
デロイト トーマツ コンサルティングは、カラム数が非常に多いといった損害保険ならではのデータ構造にも配慮しながら、最適なシステムを構築してくれました。また DWH を新規構築したことでデータ抽出・加工の属人性が排除され、データ分析プロセスの標準化が可能になったことも、高く評価しています。Tableau そのものもユーザーフレンドリーで、とても使いやすいと思います。これからもこの基盤を積極的に活用し、データの民主化を推進していきたいと考えています。